ペリー荻野さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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独眼竜政宗

2025/1/27公開

渡辺謙主演、1987年放送のNHK大河ドラマ

 戦国時代の「暴れん坊」は奥羽にいた! 東北の勇者、“独眼竜”と呼ばれた伊達政宗の波乱に満ちた生涯を描いた大河ドラマ第25作(初回放送は1987年)。

 梵天丸(後の伊達政宗・藤間遼太)は奥州伊達輝宗(北大路欣也)と義姫(東の方・岩下志麻)の子として誕生。5歳のとき疱瘡(ほうそう)で右目を失った。父には国の王者となるべく教育されるが、母は弟を溺愛する。複雑な思いを抱きつつ、虎哉和尚(大滝秀治)の教えを受けて成長した梵天丸は13歳で愛姫(後藤久美子・桜田淳子)と結婚。父との悲劇的な別れ、近隣諸国との激戦を経験し、伊達政宗(渡辺謙)は、片倉小十郎(西郷輝彦)、伊達成実(三浦友和)ら家臣とともに奥州制覇、そして、天下を目指す。

 バブル前夜ともいえる87年、当時、伸び盛りの俳優・渡辺謙が若き武将をダイナミックに演じた戦国物語は、大河ドラマ歴代最高の平均視聴率39.8パーセントという驚異的な数字を記録している。

 その仕掛人は、脚本家・ジェームス三木。「独眼竜」の二年前、純愛をテーマにした朝ドラ「澪(みお)つくし」を大ヒットさせ、主演の沢口靖子を一躍スターにした、エンタメを知り尽くしたライターだ。「昔から、とにかく観る人をびっくりさせたい、ウケたい一心で仕事をしている」というだけに、「独眼竜」にも、名セリフ、名場面がたくさん出てきた。

 まず、度肝を抜かれた名場面は第一話。いきなり出てきたのは、伊達政宗本人の骨!
 伊達家の墓所移転の際に調査されたため可能になった映像だが、まさかの形でご本人登場となった。大柄なイメージの政宗が実は身長159センチ。血液型はB型ということも判明。調査が進むにつけ、三日月の冑や斬新な衣服を身に着けたこと、寝姿を決して人に見せなかったといった逸話が次々と出てきて、脚本家の創造力を刺激したのだった。

 続く第二話「不動明王」では、梵天丸は不動明王の顔がなぜ恐ろしいのか尋ねる。虎哉和尚から、「恐ろしい顔は悪を懲らしめるためじゃ。不動明王は優しい仏様じゃ。外見と異なり慈悲深い」と教えられると、じっと考えた末、「梵天丸もかくありたい」と言う。この言葉は、この年の流行語となった。ちなみに梵天丸役の藤間は、当時、幼稚園の年長組だった。

 骨肉の確執もすさまじい。母・東の方は、政宗を蟄居させて、弟の小次郎を跡取りにさせようするも失敗。兄の最上義光(原田芳雄)が治める山形城に駆け込む。野心家の義光は、妹に伊達家のために政宗を毒殺しろという。さすがの東の方もこの提案には、倒れ込むほど戦く。しかし、戦きながらも出陣する政宗の器に毒を盛る……。

 親兄弟の争いもある戦国時代とはいえ、母が我が子を。ひいいいっと目をむき、震える岩下志麻! 驚くべき場面となった。

 そして、忘れられないのが、勝新太郎演じる秀吉と政宗の場面だ。

 政宗は、小田原城を攻め、天下獲りの総仕上げをする秀吉に謁見することになる。以前から、天下獲りの野望があるのではと疑われる政宗は、戦場になんと白装束で現れる。その前に腰かけた甲冑姿の勝新秀吉は圧倒的な存在感。じろりとにらんでだけで、政宗はカチコチだ。高台に政宗を案内した秀吉は、「蟻もはい出る隙間もないであろう」と城を囲んだ自軍の布陣を見せつけ、刀を政宗に預けて立小便をするのだ。今、この刀で斬りかかれば天下人を葬ることもできる……が、政宗にはとてもそんなことはできなかった。背中だけで威圧する秀吉の迫力は、今も語り草だ。勝はこの場面のため、「本番まで(渡辺に)会わない」と役作りに没頭していたという。

 もうひとつ秀吉×政宗の名場面は、政宗の右腕ともいえる片倉小十郎にまつわるエピソード。当主の補佐役としての力を見込まれた小十郎は、豊臣から破格の条件を提示され、ヘッドハンティングを打診される。だが、小十郎は、命を捨てる覚悟で天下人の命をきっぱり断るのだ。

「恐れながら申し上げます! 小十郎は自分が屍として(秀吉のもとに)参る分には構いません」と、その言葉を聞いた政宗も泣く。西郷本人は「勝さん、家康役の津川雅彦さん、名だたる方たちがずらーっと並ぶ前で、一番いいことを言える役で、気持ちよかった」と語っている。これをきっかけに無名に近かった片倉小十郎は注目され、女性ファンが急増したという。

 実力は認められながら、ついに天下人にはなれなかった政宗。やがて徳川の世になり、最終回は三代将軍徳川家光の時代になっている。政宗も能や詩作をするご隠居生活。若いころには、「お前を殺してやる!!」と眉毛を吊り上げていた怖い母との関係も泣かせる。自分の死期を悟った政宗は、愛妻愛姫に「わしの死後は、木像にも肖像にも必ず、両目を入れさせよ」と言う。その理由は……くーっ、これも実に心憎い言葉なのだ。

 命ギリギリの乱世だからこそできた名場面の数々、ぜひ、画面で確かめてみてください!

今回ご紹介した作品

独眼竜政宗(NHK大河ドラマ)

放送
NHKBSにて毎週月曜18時~放送中

情報は2025年1月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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