ペリー荻野さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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イクサガミ

2025/12/19公開

世界で注目を集める超ド級バトルロワイヤル

Netflixシリーズ「イクサガミ」独占配信中

 配信開始2週目にしてNetflixグローバルTOP10(非英語シリーズ)1位を獲得。11月17日から23日の週には、9つの国で1位を獲得。日本、アメリカ、インド、インドネシア、タイ、ブラジル、カナダ、フランス、韓国などを含む88の国と地域で週間TOP10入りを果たす快挙を達成するなど、世界中から注目を集めるNetflixシリーズ「イクサガミ」。

 物語の舞台は、明治初期の1878年。武士の世が終わり、新たな日常が始まったばかりの日本で時代の変化についていけず、困窮する者も多かった。そのひとり、嵯峨愁二郎(岡田准一)は、病に倒れた家族を救うため、莫大(ばくだい)な賞金を懸けた危険なゲーム"蠱毒"(こどく)への参加を決意し、京都へと向かう。それは、腕に覚えがある者292人が、各自に配られた木札を奪い、死闘を続けながら、東京を目指すという遊戯だった。

Netflixシリーズ「イクサガミ」独占配信中

 運営者・槐(えんじゅ・二宮和也)の号令とともに始まったすさまじい命の奪いあい。しかし、かつて“人斬り刻舟”と呼ばれた愁二郎は、トラウマからなかなか刀を抜けない。やはり家族のために参加していた少女・香月双葉(藤﨑ゆみあ)を見つけた愁二郎は、彼女の手を取って、走り出す。

 原作は直木賞作家・今村翔吾の同名小説。演出は岡田と映画「最後まで行く」(2023年)でタッグを組んだ藤井道人監督だ。

 このドラマの見どころその1は、なんといっても岡田准一はじめ、キャストのアクションの数々。ゲームが始まった途端、息もつかせぬ勢いで、すさまじい殺し合いが続く。が、そこに一番弱っちい(と見える)双葉がいることで、隠れたり、逃がしたりと愁二郎のペースに緩急ができる。いわゆるバトルロワイヤル的な映像に慣れていない私は、ドキドキのしっぱなし。

Netflixシリーズ「イクサガミ」独占配信中

 武術に精通し、「ジークンドー」など格闘技の師範でもある岡田准一は、プロデューサーとアクションプランナーを兼任。アクション全般のプランニングを担当している。出演したTBS「情報7daysニュースキャスター」では、「本物をどのパーセンテージで入れるかにこだわった」と語っていた。

 多くの時代劇では、主人公が映えるよう、魅せるアクションが主流になる。華麗な着物で画面の中央に立ち、次々襲い掛かる敵をひらりひらりと討ち払って、ほとんどその場を動かない主役も多い。定番の「型」があることで、視聴者はゆったりとシーンを楽しみ、拍手を送れるのだ。

 しかし、岡田は走り、跳び、ぶち当たる。すべてが体当たり。そのアクションに「本物」の武術が岡田流の配分で入っているのである。驚いたことに戦う場所を土にするか、坂道にするか、足場も計算に入れていたという。この緊張感にどっぷり浸るのが、このドラマを楽しみ第一のコツだ。

 見どころその2は、愁二郎や登場人物の過去や正体が明らかになっていく過程。

 なぜ、愁二郎は刀を抜けなくなったのか。次第に彼の過去、兄弟との関りも明らかになってくる(明治なので、写真も重要な手がかりになる!?)。宿命的にバケモノのような刺客に狙われる義妹(清原果耶)と再会した愁二郎の動きも気になるところだ。

Netflixシリーズ「イクサガミ」独占配信中

 そして、生き残るために手を組もうと提案してきた元伊賀忍者の響陣(きょうじん・東出昌大)、複数の矢で一度に敵を倒すカムイコチャ(染谷将太)、残忍さをむき出しにする貫地谷無骨(伊藤英明)などなど、出くわす遊戯参加者たちとどう渡り合っていくのか。怪しかったり、無表情で何を考えているかわからなかったりいる彼らの背景に何があるのか。少しずつ明らかになっていく。

 見どころその3は、いったい誰がなんの目的で"蠱毒”を仕掛けているのか。

 京都で"蠱毒”が始まったときから、その様子を高みから見物し、面白がっている者たちがいた。彼らが“主催”と呼ぶ人物の正体はなかなかわからない。その謎解きも重要だ。

 注目したいのは、内務省内務卿・大久保利通(井浦新)、大警視・川路利良(濱田岳)、駅逓局局長・前島密(田中哲司)など、実在の人物も出てくること。愁二郎も思わぬ形でかつての同志と再会する。彼らが関わる事件、人間関係も巧みに織り込まれている。

Netflixシリーズ「イクサガミ」独占配信中

「イクサガミ」とは、雰囲気も物語もまったく異なるが、現在放送されているNHK朝ドラ「ばけばけ」も明治の物語。主人公トキ(高石あかり)の祖父・松野勘右衛門(小日向文世)は、ちょんまげを結い、何かというと木刀を振り回している。勘右衛門が、スキップが上手いのには笑ってしまったが、廃刀令で武士の魂を奪われた者たちの怒りや焦りはふつふつと胸の内にあったはず。「イクサガミ」が見せる人間のエネルギーの爆発を見ていると、戦国時代も幕末も激しかったが、文明開化と浮かれていたようなイメージだった明治もヒリヒリするような時代だったんだなと改めて思う。

 シーズン1の最後に横浜流星が最狂の剣士・天明刀弥役で登場。今後、どんな技を見せるのか。とにかく油断できない、油断させてくれないシリーズだ。

Netflixシリーズ「イクサガミ」独占配信中

今回ご紹介した作品

Netflixシリーズ「イクサガミ」

配信
独占配信中

情報は2025年12月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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