ペリー荻野さんのドラマ批評 - 浮浪雲(はぐれぐも)

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

>プロフィールを見る

リクエスト

浮浪雲(はぐれぐも)

2026/2/24公開

「あちきと遊ばない?」令和のテレビに復活した自由人

 何かと寒々しい話題も多い令和のテレビに、我らが「浮浪雲」の旦那がふらふらっと帰って来た。時代劇で「ふらふら」という言葉が似合う主人公は、雲だけだ。

 時は幕末。主人公の雲(佐々木蔵之介)は、武家で出でありながら、今は品川宿の問屋場「夢屋」の頭になっている。問屋場は、駕籠や馬で人や荷物を運ぶ流通ステーションみたいなもの。その頭は、今でいえば社長? 会長? CEO? とか言われる立場ながら、浮浪雲は、女物の着物にゆるゆるのチョンマゲを前向きに結っているという摩訶不思議な風体。昼日中から仕事もせずに通りをふらふら。女の人を見れば、誰彼構わず「おねえちゃん、あちきと遊ばない?」と声をかけるというチャラチャラぶり。店の番頭の欲次郎(イッセー尾形)は頭から湯気を出す勢いで「もっと働け」と言われる。なのになぜか、女にも男にも好かれ愛され、頼りにされ、浮浪雲が一声がければ「威勢のいい雲助が500人集まる」という人気者なのだ。

 そんな浮浪雲のしっかり者の妻・かめさん(倉科カナ)。ふわりふわりと漂う雲のような旦那や成長期の息子・新之助(川原瑛都)の世話にてんてこまいの毎日を送るかめさんは、文句を言いつつもやっぱり旦那様が大好きで可愛いらしさも持っている。

 このドラマの最大の魅力は、常識にとらわれてカチコチになっている我々の頭を、雲が何気なくほぐしてくれること。

 第一話。品川宿に海道一の親分といわれる清水次郎長(加藤雅也)一家がやってきた。さすがの貫禄で、地元の春秋親分(六平直政)一家を見下し、挨拶もしない。森の石松ら子分たちも威張って宿場の人に迷惑をかけていると聞いた春秋親分は、ついに次郎長と直接対決。しかし、次郎長に「声が震えてるんじゃねえのか」などとバカにされ、このまま喧嘩になったら……というとき、例によってふらふらと現れたのが、浮浪雲。斬りかかって来た清水の子分たちを仕込みの杖でぽこぽことやっつけた。そして次郎長にひとこと。「あんたにできるか。負けるとわかっている喧嘩がよ」

 くーっ、やるねえ。雲の言葉の意味を悟った次郎長もさすがだった。自分の非礼を認め、春秋親分にしっかりと挨拶し、颯爽と旅立った。

 雲は剣の腕もあるが、ふだんは見せない。相手を否定したり、傷つけたりもしない。どこまでも自分らしくふるまう。いい加減なようで、強くないとできない。頭として慕われるのには、ワケがあるのだとわかる。

 雲は子育ても独特だ。

 第二話で「日本を変える」と元気がいい坂本龍馬(中山優馬)に感化された新之助に、雲は「親なんか泣かせたっていいんですよ」とさらりと言う。子どもに対しても「ですます」調で、言い分や思いを尊重する。その後、新之助は塾仲間と家出を決行。みんなが必死に探す中、雲は雲助の定八と組んで駕籠かきになってえっさほいさと山道を走り、先に進めなくなり、独りぼっちになった息子に「乗ってくかい?」と声をかける。

 子どもの迷いや失敗をおおらかに見守る。これまた、できそうでできないこと。新之助は、習ったばかりの英語で「マイファーザー、イズ、ベリーナイス」という息子に成長している。新之助は、道具屋「立花屋」の娘、お玉(稲富ことね)が気になる様子。息子の初恋を雲がどんな風に見守るのかも見どころになりそうだ。

「浮浪雲」の原作はジョージ秋山の漫画。連載が始まったのは、石油ショックで日本が騒然となった昭和48年(1973)。以来、連載は2017年まで続き、回数にして1039回、単行本にして112巻という大ヒット作品となった。1978年のドラマ版で雲を演じたのは、渡哲也だった。刑事ドラマでは角刈りに黒サングラスで全面強面だった渋め俳優が、雲の扮装で「あちきと遊ばない?」と画面に登場、それだけでもびっくりだったのに、桃井かおり演じるかめは、掃除しながらピンクレディーを歌ったり、坂本龍馬(山崎努)のサインを巡って大騒動が起きたりと、やってることはほぼ現代ドラマ。「このドラマはフィクションであり、時代考証その他、かなり大巾にでたらめです」テロップを出したこのドラマの脚本を「北の国から」の倉本聰が書いていたというのも、またびっくり。

 その後、平成期にはビートたけしの雲と大原麗子のかめさんでドラマ化、令和になっても舟木一夫が舞台で演じている。

 蔵之介の雲は、「武士ってそんなにいいもんなんですかねえ」「好きにやるってのも案外難しいもんですよ」と飄々としながらも世の中を見る力や剣の鋭さが光る。徳川の世がひっくり返った幕末は、価値観や人との距離が激変、本物とフェイクが入り乱れる現代とどこか通じている気もする。蔵之介は、雲にとって「人生で一番大切なことは機嫌がいいこと」というところに共鳴しているという。どんなに世の中が変わっても、権威や常識、お金にも縛られず、本物の自由や平等、男の優しさをふわふわと見せる雲。やっぱり魅力的です。

今回ご紹介した作品

浮浪雲

放送
NHK-BSにて毎週日曜18時45分~放送中
配信
NHKオンデマンドにて配信中

情報は2026年2月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

週刊テレビドラマTOPへ