ペリー荻野さんのドラマ批評 - 風、薫る

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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風、薫る

2026/5/25公開

日本で初めて近代看護学を学んだ二人の女性の物語

 NHK連続テレビ小説「風、薫る」は、タイトルの通り、涼風、そよ風、烈風、日本の朝にさまざまな風を吹かせている。

 主人公の一人、一ノ瀬りん(見上愛)は、那須の山すその村でおっとりと育った元家老の娘。もうひとりの主人公・大家直美(上坂樹里)は、親に捨てられ、キリスト教の牧師に育てられた。

 序盤から、二人の日々は、波乱続く。

 りんは、村で流行したコロリ(コレラ)で大黒柱の父・信右衛門(北村一輝)を亡くす。生活のために運送業で財を成した十八歳年上の奥田亀吉(三浦貴大)の後妻となったが、夫から蔑まれ、火事をきっかけに娘を連れて東京に出てきた。直美は、身分を偽って鹿鳴館のメイドになったが、結婚相手にとときめいた軍人は、詐欺師だった。二人は、鹿鳴館の華と呼ばれた貴婦人・大山捨松(多部未華子)と知り合ったことから、看護師養成所に入り、やがて医療の現場へと羽ばたいていく。

 自分の道を見つけて歩んでいくのは、朝ドラの王道だが、このドラマをよく見ると王道の流れの中に「ヒットドラマの強み」が詰め込まれていることがよくわかる。

 強みの第一は、実在の人物をモチーフにしていること。「風、薫る」のモデルとなったのは、明治時代に日本で初めて近代看護学を学んだ二人の実在女性、大関和と鈴木雅だ。近年の朝ドラでは、「ブギウギ」、「虎に翼」、「あんぱん」など実在の人物を中心にした作品が目立つ。女性の人生を描くことが多い朝ドラでは、主人公が、どういうきっかけでその道へと進んだのか、視聴者が共感したり、応援したくなるのが大きなポイント。フィクションとして再構成した物語ではあっても、こんな人たちがいたのだと説得力をもって伝わってくる。

 さらに前作「ばけばけ」に続き、明治時代が舞台であることにも重要だ。

 江戸時代の身分格差の名残もまだ残っている時代、女性の生き方は制限されている。その象徴がりんが手にするすごろくだ。女性の人生をすごろくに見立てたもので、結婚前の彼女が見ていたすごろくの「上り」は「奥様」だった。良縁に恵まれ、裕福な奥様になることが、幸せのゴールだとみんなが信じていたのである。その後、婚家で手にした新しいすごろくには、女学校を出ると、教員や医師にもなれるとあり、上りは鹿鳴館にいるような洋装の「当世の淑女」だった。たった数年で「上り」が変わる。とはいえ、女性の自立は難しい。りんの母も「ナース」と聞いて、「なす?」と言ってるし、当時、病人の看護をするのは、貧しい人がお金のためにやっていたため、世の偏見もある。看護婦を「病人の面倒を見る下女」なんていうセリフもあった。激変する時代の中で、偏見とどう闘っていくのかも見どころになる。

 第二の強みは、バディものであること。

 春まで放送されていた長寿刑事ドラマ「相棒」(テレビ朝日系)をはじめ、今期も岡田将生・染谷将太演じる兄弟バディの警察ドラマ「田鎖ブラザーズ」(TBS系)、文学好きのバーのママ(波留)と専業主婦(麻生久美子)のロードムービーミステリー「月夜行路-答えは名作の中に」(日本テレビ系)、文字フェチの変わり者刑事(鈴木京香)と新米係長(黒島結奈)の「未解決の女 警視庁文書捜査官Season3」(テレビ朝日系)など、バディもの全盛である。

 バディものの長所は、二人の目線で、違う角度から物語を描けること。「風、薫る」でも、養成所に入所したばかりの直美は、みんなで英語の書物を訳す際にも、自分が教会や独学で必死に身に付けた英語の知識を仲間たちに教えようとはしなかった。そんな直美を、日曜日にうちに来ないかと誘ったりんは、「他人の一家団欒を見せられて、私が楽しいと思う?」と言われ、直美を傷つけてしまったと後悔する。これほど生い立ちや性格も違う二人が、どう理解し合い、学びや仕事に向き合っていくか、違うからこそ出てくるひらめきなどを描くことができる。

 もちろん、ヒロイン二人分のファン獲得も狙っているはず。ほわっと微笑む見上愛と、当時珍しい断髪できりりと立つ上坂、イメージが対照的なところも面白い。

 第三の強みは、医療ドラマの要素も期待できること。

 りんと直美は、感染症、難病など厳しい現場に関わっていくことになる。

 二人が看護の実習をする帝都医大病院では、コミュニケーションがとれず苦労する園部(野添義弘)や心を閉ざしている千佳子伯爵夫人(仲間由紀恵)、心中未遂の女郎夕凪(村上穂乃佳)など、さまざまな患者の看護を担当する。病院長(筒井道隆)やりんたちと対立する助教(坂口涼太郎)、エリート外科医(古川雄大)、りんたちのように専門の訓練を受けていない看病婦(かんびょうふ)たちとの関りも気になるところ。病院組織の対立や人間関係も、医療ドラマには欠かせない要素だ。私としては、りんに意地悪を言い続けた前夫亀吉が入院してきたりして、などと想像もしてしまう。

 りんには彼女に心惹かれる幼なじみの虎太郎(小林虎太郎)や英語を教えてくれたりする シマケン(佐野昌哉)もいるし、直美にも出会いがありそう。恋愛ドラマ要素も入ったら、強みはMAX。新米ナースには風当たりは強そうだが、順風満帆になることを祈ってます!

今回ご紹介した作品

風、薫る

放送
NHK総合にて月~金曜8時~放送中

情報は2026年5月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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