ペリー荻野さんのドラマ批評 - 盤嶽の一生

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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盤嶽の一生

2026/10/30公開

市川崑監督×役所広司主演の贅沢な時代劇

画像:盤嶽の一生 1

 やたら画数が多くカチカチした印象の「盤嶽(ばんがく)」とは、主人公の名前。フルネームだと阿地川盤嶽という。演じるのは役所広司だ。

 恩師から授けられた名刀・日置光平(へきみつひら)を相棒に旅を続けている天涯孤独な浪人、盤嶽は、剣の腕は一流だが、名前の通り、頭はカチカチ。あまりに一本気で、人を信用しては騙される。
 愛すべき男の姿を描く、ちょっと不思議なロードムービーだ。

画像:盤嶽の一生 2

 第一話「わが愛刀よ」の冒頭。盤嶽は「(父)ちゃんが病気で……」という子どもに同情して草鞋を買うが、その子の父親がピンピンしているのを見つけて、「こんな頑是ないこどもにウソをつかせていいのか!」「世の中、どうもウソでいっぱいだ!!」と怒る。

 その足で向かった先に待っていたのは、昔の浪人仲間の三輪(石倉三郎)だった。今は代官の武富多平太(立川三貴)に仕える三輪は、盤嶽に仕官しないかと持ち掛ける。仕事は水門の警護だという。しかし、ゆき江(鈴木京香)という娘から、美術工芸品の蒐集や風流に熱中する武富が庭に水を引くために作った水門のせいで農民たちが困っていると聞いた盤嶽は、三輪の話にも、水門破壊のために五十両用意した村人を助けてというゆき江の話にも嘘があると知り、どちらにも協力しないと決めて、村を去ろうとするが、なぜか命を狙われる!?

 この作品は、平成時代劇の中でも、とても贅沢なシリーズといえる。
 贅沢な理由その1は、スタッフとキャスト。
 もともとこの作品は、大衆文学作家・白井喬二の代表的小説を原作に、戦前、名匠・山中貞雄監督が大河内傳次郎(主演)で映画化した作品をもとに市川崑監督たっての希望でドラマ化が実現したのだった。市川監督とは、昭和の大ヒット時代劇「木枯し紋次郎」でも組んだ映像美術の大御所・西岡善信はじめ、殺陣の宇仁貫三などフジテレビで「鬼平犯科帳」「雲霧仁左衛門」を手がけた時代劇のベテランスタッフが集結。第一話、二話の演出は市川崑、脚本には市川が共同で使用していたペンネーム久里子亭の名が入っている。

 主演は、数々の映画賞にも輝き、世界的に評価されている役所広司。このシリーズ放送の二年前に公開された市川崑監督の『どら平太』で、第24回日本アカデミー賞優秀主演男優賞も受賞している。

 そして、共演では、うじきつよし、高橋和也、宇崎竜童、渡辺いっけい、船越英一郎、ベンガル、笹野高史、火野正平などくせ者たちともに注目したいのは、妖艶にしてしたたかな女たち。第一話の鈴木をはじめ、浅野ゆう子、安達祐実、中原果南、藤谷美紀らが盤嶽を翻弄する。

画像:盤嶽の一生 3

 贅沢その2は、二転三転のストーリー。
全体にはどこかユーモラスで、悲惨なシーンもなし。そもそも人を騙すことがテーマという時代劇は珍しい。

 第八話「男と女」では、昼飯をご馳走になった縁で、農家の源助(梨本謙次郎)、おりん(広岡由里子)夫婦に世話になった盤嶽は、村で高額のお札を売ってもうけるお蝶(桃井かおり)の存在を知り、インチキはいかんと注意するが「人の役に立つ」と反論される。一方、地元の親分・清兵衛(石橋蓮司)は、お蝶らの商売を乗っ取ろうと画策する。

 もはや、善も悪もいっしょくたで、決着が予想できない。その中でただひとり、「ウソはいかん!」と言いづける盤嶽は、どこかファンタジーの世界の住人のようにも見えてくるのである。

 贅沢その3は、盤嶽のチャンバラ。
 なぜか事件に巻き込まれ、大勢を敵に回すことも多い盤嶽は、日置光平を手に堂々と戦う。とにかく強い! 人を斬ることを好まない盤嶽が、さっと刀を返して、相手を峰討ちにする場面は、カッコいい。

画像:盤嶽の一生 4

 役所広司は、仲代達矢主宰の「無名塾」で学び、79年、仲代主演の映画「闇の狩人」(原作・池波正太郎、監督・五社英雄)に出演。83年には、大河ドラマ「徳川家康」の織田信長役で人気を獲得。84年にはNHKの新大型時代劇「宮本武蔵」に主演して、二刀流も披露している。80年代後半~90年代に高橋英樹や春風亭小朝とともに出演した「三匹が斬る!」シリーズで、毎回、豪快な立ち回りを披露していた。

 役所は若いころ、最初に仲代とテレビの時代劇でセリフのやりとりをしたときに、NGを出してはいけないと、かなり用心して言葉を発したところ、仲代に「セリフを用心するな」と教えられ、その教えは今も残っているという。近年は、映画「清須会議」の柴田勝家、「関ヶ原」の徳川家康、「峠 最後のサムライ」の河井継之助と、歴史上の大物を貫禄たっぷりに演じることが増えた。「関ヶ原」では、「はらわたが煮えくり返る!」と特殊メイクででっぷりギラギラ老人になってびっくりだったが、いつか、今の役所広司のユーモアとチャンバラが楽しめる作品に出てほしい。絶対、楽しい作品になると思う。

今回ご紹介した作品

盤嶽の一生

配信
時代劇専門チャンネルNETにて配信中

情報は2026年10月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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