寺脇研さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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未成年裁判

2022/04/26公開

日韓共通の課題「少年法・14歳の壁」を扱った話題作

Netflixシリーズ「未成年裁判」独占配信中

 この4月から、民法改正により成人年齢が満20歳から満18歳へと引き下げられた。それに伴い少年法の規定も変わり、「少年」の範囲は20歳未満から18歳未満となる。18歳、19歳は「特定少年」とされ、これまでよりも「厳罰化」されるわけだ。その一方で、刑事責任を問われない「触法少年」の方は14歳未満のままとしている。こちらも、センセーショナルな事件が起きる度に「厳罰化」するための年齢引き下げ論が叫ばれるのだが…。

 韓国も、「触法少年」は14歳未満だ。大人が驚くような凶悪事件が起きた際、厳罰化を求める世論が沸騰するのも同じらしい。先日の大統領選挙で選ばれたユン・ソンニョル次期大統領も、2歳引き下げる少年法改正を検討したいと発言したことがあるという。最悪の日韓関係と言われるほど政治関係が冷えきっている両国だが、社会の抱える課題は、驚くほど似通っているのだ。

 タイトルの通り少年犯罪に関する裁判を扱うこのドラマが、特に焦点を当てているのはこの問題である。小学生が殺され惨死体で発見される事件から始まり、高校の期末試験問題漏洩、盗んだ車の運転事故、屋上からのレンガ投擲、少女集団レイプ… 少年犯罪が次々と俎上に載る中で、クローズアップされるのは「14歳の壁」だ。未熟な年齢の少年には、処罰よりも児童福祉の観点からの保護対応が適切とされている。

 ただ、国によって基準年齢が異なったりするため引き下げ議論を生みやすい。このドラマに出てくるように、自分は14歳未満だから大丈夫と、本人が高をくくったり弁護士が知恵をつけたりする事例もあり、被害者側に複雑な感情が生じるのも無理からぬところはある。厳罰を逃れたために、さらに犯罪を重ねる少年たちも登場するから、観ているわれわれだって、つい被害者側にだけ立ってしまいかねない。

 だがドラマは、一方で懸命に更生しようとする少年たちの姿をも描く。全篇を通してさまざまな事件に直面する判事たちは、「少年部単独判事」と呼ばれる専門職に位置づけられており、判決を下すだけでなく更生の在り方にまで関わる立場らしい。それぞれの個人的経験や価値観を持つ彼らが、内心の葛藤や意見の相違を乗り越えていく過程も見どころであり、われわれ視聴者はそこからも考えを深めることができる。

Netflixシリーズ「未成年裁判」独占配信中

 このように深刻なテーマを提示する社会派物語なのだが、決して堅苦しいばかりではない。たしかに少年たちの犯罪場面は目を背けたくなる部分もあるだろうが、登場人物たちの人間味あふれるキャラクターや、少年たちを取り巻く家族の情愛には、韓国作品特有の温かさが滲み出る。全体として、道を踏み外した者たちが更生するのを支える指向を持っていることに救われる思いもする。

 そして、随所に意外な展開を配置して飽かせない作劇も光っている。全10話を一気に観てしまったとの感想をSNS上などで見かけるのは、その成果だろう。決して安易に少年に味方するのではなく、冷徹なまでに法と理屈に基づいて裁きを進めていく主人公の女性判事像にも、われわれは、彼女の周囲の連中と同じく徐々に惹かれていってしまう。

 キム・ヘスほど、この役にうってつけの女優はいないだろう。

 日本ドラマ『ハケンの品格』(2007年)をリメイクした『オフィスの女王』(2013年)ではタフな派遣社員、『ハイエナ-弁護士たちの生存ゲーム-』(2020年)では、手段を選ばず勝訴を目指す辣腕弁護士として活躍してきた。映画でも、『修羅の花』(2017年)では男たちを従える暗黒街のボス、『国家が破産する日』(2018年)では、1997年のIMF経済危機を舞台に経済破綻を回避するために闘う韓国銀行(日本銀行に当たる)の担当者、『ひかり探して』(2020年)では難事件の捜査に没頭する優秀な刑事…と、男性に決して引けを取らない職業人を演じている。

Netflixシリーズ「未成年裁判」独占配信中

 2021年度、世界の「男女平等ランキング」で120位の日本に比べればマシにしろ、102位の韓国も厳然たる男中心社会であるのは否めまい(これも両国の共通課題)。そんな国のドラマや映画で、毅然たる姿勢で男性と渡り合う女性を演じて右に出る者は、今や彼女を置いて存在しないのではないか。

 問題提起の的確さ、作劇の妙、俳優たちの魅力、どれを取っても一級の出来である。とはいえ、それらを楽しむだけでなく、ここにある問いかけに対し自分の考えを真摯に導き出して行くことを、われわれは求められているように思う。何も、すぐに答を出す必要はない。安易に結論づけて思考停止してしまうより、考え続ける不断の営みこそ重要なのだ。

 ラスト、再出発した主人公が裁こうとする犯罪少年は、最初の事件で触法少年として処置を受けた13歳の男の子だった。保護観察処分期間を終えた後、彼は、また罪を犯してしまったのか… ?
次回シリーズへ繋がっていくのかどうかも気になるけれど、それより、この問題に簡単な結論などないのだと受け止めた。

予告編

今回ご紹介した作品

未成年裁判

Netflixで独占配信中

情報は2022年4月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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