寺脇研さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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補佐官 シーズン2

2022/09/21公開

国会議員に成りあがった「補佐官」、その信念の行き着く先は…

Netflixシリーズ『補佐官』シーズン1~2独占配信中

 前作『補佐官』のラストで、イ・ジョンジェ演じる主人公は国会議員選挙に当選した。前回書いたように、「補佐官」は国会議員を補佐する職であり、わが国でいえば「政策秘書」に近い。日本でも、衆議院議員の前職は最も多数を占める地方政治家に次いで秘書が2位だから、この展開は無理のないところだ。

 しかし、『国会議員』と題名を変えたわけではないから、タイトルに偽りあり、とまでは言わないにしろ違和感はある。だが、そこはぬかりなく、主人公周辺のさまざまな補佐官たちの活躍ぶりを描くことでカバーしているのだ。

 新たに、2人の魅力的な補佐官が登場する。1人は、前作では主人公率いる補佐官チームを下支えする初々しいインターンとして働いており、晴れて補佐官に採用された生真面目な青年だ。ただ、前作結末部分での主人公の清濁併せのむ行動が若い彼には納得できず、袂を分かって、シン・ミナ演じる女性議員の下に居る。

 もう1人、第1話から颯爽と初登場するのは、同じ議員事務所の先輩補佐官の女性だ。前作終わり近くで何者かから殺害された首席補佐官に代わって、出産育児休業中のところ急遽復帰したのである。大勢の知的障害者に奴隷的強制労働させていた実際の事件をモデルにした社会派サスペンス『奴隷の島 消えた人々』(2016年)の、事件を暴こうとする女性記者役で主演したパク・ヒョジュだけに、理知的で実にカッコイイ。新米補佐官である青年を厳しく鍛える。

 彼らだけでなく、主人公を慕う女性補佐官など前作から引き続きさまざまなタイプの補佐官たちが脇役として物語を彩る。ベテランも新人も、純粋な者も保身に走る者も皆、議員の黒衣として「ご主人様」を守る立場だ。国会議員を目指して挫折した過去を持つ主人公の父親が、息子自慢で隣人たちを大勢引き連れ国会見学に来たとき、多忙の議員をかばってうまく処理するあたり面目躍如。そういう地味な役割でありながら、同時に一人の人間でもあるから、それなりの個性や価値観を持っている。議員たちの派手な活動の裏方を務める連中の群像劇とでも言おうか。

 とはいえ物語の主筋は、前作から繋がっているダイナミックな政治闘争である。補佐官だった頃に仕えていた大統領の座を狙う大物議員の不正を暴き、政治に正義を取り戻そうとする主人公は、とうとう敵と正面から激突する。自身の補佐官が自殺を装って殺された事件で主人公との間にわだかまりができていた女性議員との信頼関係も回復し、二人は公私ともにコンビを組んで闘うことになる。

 大物議員は、大統領から法務部長官に任命され、ますます権力を増大させている。この職、日本なら法務大臣に当たるが、国会議員が当選回数順にその座に就くのとは違い、韓国の大臣は議員以外の有識者も多いので、選ばれた特別な立場だ。さらには、前大統領ですら捜査の対象にするほどの司法権力である検察を支配下に置くのだから、その強みは絶大と言っていい。

 この難敵を相手にするとなると、簡単な勧善懲悪ドラマでは済まなくなる。敵の不正をひとつひとつ摘発しようとする二人には、次々と妨害や困難が降りかかる。主人公には検察から不正献金疑惑への関連が疑われ、女性議員にもさまざまな形の圧力がかけられて来る。ここからは、一進一退の攻防の連続で、そこに視聴者の目は奪われていくのだ。

 攻める主人公サイドは、政治の裏金を供給する財閥会長とその手先で強引な隠蔽工作を担当する少壮財界人に照準を合わせる。彼らを告発できれば大物議員を失脚させられるのだ。相手も黙っていない。捜査を担当する検事に圧力をかけ追い落とそうとするのをはじめ、さまざまな手段で阻止にかかり、ついには主人公の命まで狙ってくる。

 しかし彼らはめげない。女性議員は、裏金を扱った銀行の頭取である自分の父を告発してまで真実に迫る。襲われ意識不明の状態になった主人公は執念で復活する。二人を支える補佐官たちも、ある者は大怪我を負わされても耐え、ある者は陥れられた議員をかばって罪を背負う。さて、議員、補佐官一丸となっての追及の結末は…。

 政治に不正や金権が付きものなのは、残念ながら韓国も日本もたいして変わらないていたらくだ。でも、韓国には政治家や補佐官を扱ったこんなドラマがあるのに、日本には見当たらない。わずかに『新聞記者』だが、マスコミや官僚どまりで政治家や秘書たちのなまなましい内情にまで斬り込めていないのが、なんとも悔しいところである。

今回ご紹介した作品

補佐官 シーズン2

Netflixで独占配信中

情報は2022年9月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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