寺脇研さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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バッドガイズ2 ~悪の都市~

2022/09/30公開

政財官の「積弊」を悪い奴らが一掃!

韓国映画を代表する監督の一人に、ホン・サンスがいる。固有のテンポで男女の間の機微を描く独特の作風を貫き、カンヌ映画祭などで世界的に認められてきた。今年も『あなたの顔の前に』『イントロダクション』の2作が同時公開されているように、日本でも人気の個性派作家だ。その作品『次の朝は他人』(2011年)で映画評論家、『ソニはご機嫌ななめ』(2013年)では大学教授と、知性的キャラクターが印象深いキム・サンジュンが一転して「狂犬」の異名を取る武闘派刑事に扮したのは、『バッドガイズ~悪い奴ら~』(2014年)だった。

 彼から減刑を餌に召集される悪党3人を加えたチームが凶悪犯を次々と倒していく痛快な面白さが評判となり、ヤクザ組織のマッチョな行動隊長を演じたマ・ドンソクが大ヒット映画『新 感染 ファイナル・エクスプレス』で一躍スターダムにのし上がったこともあって、2019年には『ザ・バッド・ガイズ』として映画化までされている。

 そのシーズン2に当たる「バッドガイズ2~悪の都市~」は、悪をもって悪を制する同種の趣向ながらメンバーを一新して、都市全体を支配する巨悪との対決を追っていく。対立図式は、検察対財閥だ。第1話のタイトル前、この都市の検察トップとヤクザから財閥の会長にまで登り詰めた悪党がサシで語り合うプロローグが両者の「対決宣言」になっている。

 検察は法、財閥は金を支配し、どちらも絶大な権力を有しているものの、今日の韓国社会ではさまざまな問題が指摘されている。前者は内部の権力争いや行き過ぎた権限行使が、後者は経済力を濫用した暴走が、現実にも国民の批判の的となっているのである。ここでも、大統領が財閥改革と検察改革を宣言しているという設定になっている。劇中の両トップは互いを「積弊(チョクペ)」だと非難するが、実際、当時のムン・ジェイン大統領は「積弊清算」をスローガンに検察と財閥をも槍玉に挙げていた。そういう旧弊な権力同士の戦いというテーマは、韓国政治の状況からすると極めて現代性がある。

 ドラマとしては、キャスティングに注目したい。

 検察側チームを率いる、それまで謹慎中だった部長検事にはパク・チュンフン。1985年に映画デビューし、『青春スケッチ』(1987年)『チルスとマンス』(1988年)で早くも人気を得て以来40年近くにわたるキャリアのベテラン映画スターである。近年は刑事役が多かっただけに、元警官だという部長検事役はぴったり合う。

 チームのメンバーも、転任してきたばかりの検事にキム・ムヨル、元暴力団員の食堂主にチュ・ジンモ、そして刑事には自らが監督・主演の『息もできない』(2009年)で日本を含む世界各地の映画賞を多数獲得し、日本映画『かぞくのくに』『ああ、荒野』などにも出演したヤン・イクチュンと、映画の主役級が勢揃いする贅沢なキャスティングだ。

 さらに、悪役側の財閥会長キム・ホンパ、その右腕にチェ・グイファ、市長ソン・ヨンチャン、検察側トップにチュ・ジンモ、検察事務官にパク・スヨンと、映画でおなじみの脇役陣が要所を押さえている。旺盛な活動を続けてきたこの四半世紀の韓国映画をずっと観てきたわたしからすると、なんと豪華な顔ぶれか、とうれしくなる。

 日本も、映画がまだ栄えていてテレビドラマ草創期だった1960年代あたりは、映画界の大スターのドラマ出演は稀だった。韓国では日本より映画の地位が高い。いまだに映画だけのソン・ガンホをはじめ、アン・ソンギ、ソル・ギョング、ファン・ジョンミンなどはドラマにあまり出ない。それが、世界配信が始まるなどドラマのスケールが大きくなるにつれ変わってきている。

 俳優たちの真剣さに定評がある韓国映画の演技陣がドラマに多数登場すればするほど、作品のレベルもさらに上がってくるに違いない。このドラマも、主要キャスト一人一人に見せ場を配し、いささか強引な筋運びはあるにしろ、派手なアクション場面と意外な展開の連続でぐいぐい話を進行させる。

 で、検察対財閥の結果はというと…。どちらも組織内に悪い奴をたくさん抱えているんだから、どうしようもない。そこに乗っかっている市長という政治家まで登場すると、さしずめ悪の展示会だ。なるほど、財閥も検察も政治家も皆「積弊」。もちろん主役チームの部長検事と後輩検事のような正義を貫く者もいるけれど、随所に悪がはびこっているようだ。

「積弊清算」を果たせず去ったムン・ジェインの後任大統領には、韓国検察の最高位である検察総長を務めたユン・ソンニョルが就任した。「積弊」のこれからはどうなるのか、温存か清算か、こちらのなりゆきもドラマと同じくらい気になるではないか。いずれの方向に進むとしても、韓国社会の未来を考えるときの重要なポイントとなるに違いない。

今回ご紹介した作品

バッドガイズ2 ~悪の都市~

以下の配信サービスで視聴できます。
Amazonプライムビデオ/Netflix/U-NEXT/GYAO!

情報は2022年9月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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