寺脇研さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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正直にお伝えします!?

2024/8/13公開

日本の大衆文化解禁20周年! 韓国ドラマが描く日韓共通の課題

Netflixシリーズ「正直にお伝えします!?」独占配信中

 今年は、韓国における日本の大衆文化全面開放から20周年を迎える。お若い方は驚くかもしれないが、20年前まで、日本の映画、TVドラマ、音楽、漫画、ゲームなどの大衆文化は、厳しく制限されていたのである。

 これは、1910年から45年まで日本統治下に置かれ、植民地支配の扱いを受けてきたことへの反感が強い国民感情と、まだ発展途上だった自国の大衆文化を育成、保護するためのものだった。1998年に、初の本格的民主化政権として大統領の地位に就いたキム・デジュンは、日韓関係を改善するため、この制限を撤廃する方針を打ち出し、2004年までに段階的に解除していく。キム・デジュン、小渕恵三の首脳同士が、最も緊密に連携し、互いを尊重し合った時代だ。

 2004年1月1日の「全面解禁」後も、唯一TVドラマだけは地上波での放映が禁じられているものの、これも有料放送やネットを通じて浸透した。早くも06年には、『101回目のプロポーズ』(91年、フジテレビ)が韓国版リメイクされ地上波SBSテレビで連続ドラマ化されている。

 解禁以後の、あらゆる分野での両国文化の旺盛な交流ぶりはご存じの通りだ。ドラマも、今やリメイクするまでもなく、配信を通じて両国共通のものとして楽しむ状態になってきている。その背景には、経済力で韓国が追いつき、IT環境で日本が追いついてほぼ同じ社会状態にあり、大衆文化の成熟度も等しくなっていることがある。また、社会問題や経済格差にも共有するものが多い。リメイクして自国社会の実態に合わせた設定にする必要が薄れるほど、生活感覚は接近しているのだ。

 このドラマ「正直にお伝えします!?」でも、主人公の部屋のテレビが、「2016年の出生数はわずか40万6000人で、2020年は27万2000人となっています……」と、悪化の一途をたどる少子化状況を伝える。そう、日本同様……どころかこちらより更に危機は深刻なのだ。過疎地の小学校閉校が報じられ、都市部からの転入を認めて小規模校を維持しようとする政策が紹介される。ちょうど我が国でも行われている地方振興策であり、隣国同士全く同じ重大な悩みを抱えているのが、改めて浮き彫りにされた。

Netflixシリーズ「正直にお伝えします!?」独占配信中

 また別の場面では、「子ども食事券」のニュースが出る。これは、こちらで言えば「子ども食堂」にあたるだろう。貧困などの理由で満足に食事にありつけない子どもたちに対する施策だ。格差社会がもたらす子どもの貧困、という課題も相通じるものがある。

 で、そうした自国の抱える社会問題をこそ国民に対して訴えかけ、社会全体で考えるための材料を提供するのが最重要任務であるはずのマスコミは、果たしてその使命を果たせているだろうか。安倍晋三政権の加計学園事件では、NHKの文部科学省担当女性記者が突き止めた大学新設に関わる不正のスクープを上層部が握りつぶしたことを、わたしは実際に知っている。そればかりかNHKは、安倍首相にベッタリの記者をその周囲に配置して政権寄りの報道ぶりを露呈した。

 NHKだけではない。今回の自民党裏金事件や東京都知事選挙におけるテレビの報道のていたらくは、ニュースマスコミとしてのテレビは終わった、もうこれからはネットの時代だ、との声を強める結果となっている。報道番組だけではない。ドラマやバラエティーでも、スポンサーや芸能事務所への忖度が常態となり、ジャニーズ事務所の性加害問題への対応では、それがあからさまに曝け出された。

 韓国のテレビは、まさかまだこんな有様ではないだろうが、大なり小なり似通っている点はあるのだろう。このドラマは、そこを鋭く衝いていく。主人公は、いわゆる「局アナ」だ。タレントと違って、れっきとした会社員だから、会社の方針にも上司の意向にも逆らえない。それどころか、息子を溺愛する上司の公私混同にも嫌な顔も見せず付き合わなければならない。まさにサラリーマンの「働き方改革」議論の種になりそうだ。一方で、局の下請け「非正規労働者」である放送作家やアシスタントの置かれた地位も悲惨なものとして描かれる。

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 そこに痛烈な一撃を加えるのが、感電事故で主人公に突如備わった超能力(?)だ。心の声がダダ漏れ、いや、明確に発言されてしまう。わがまま放題の若い人気スターの傍若無人なふるまいに一喝を加え、上司や同僚のタテマエ発言や事なかれ主義に反論する。本音の吐けない窮屈な管理社会にあっては、こうした痛快な一幕に喝采を送りたくなる。

 しかし、当然のことながら、そんな彼には厳しい仕打ちが待っている。テレビ中継される授賞式の司会で、賞選考の内幕や受賞者の過去のスキャンダルに言及したのでは、仕事を追われるのも無理はない。そこから、どうやって立ち直っていくのかが、見ものの部分になる。そこには、女性放送作家との恋愛や、昔の同級生である男性タレントとの友情が大きな役割を果たし、登場人物それぞれの家庭の事情、抱えるストレスやトラウマが絡む。

 ただ、徹底した風刺コメディー仕立てだから、観ていて深刻な気持に陥ることはない。われわれは、それに付き合っていくうち、さまざまな問題が解決される大団円に共感できる。主人公が晴れて復帰を果たした報道番組は、欺瞞も忖度もない、社会のさまざまな問題を市民と語り合う形式のものだ。これこそ、これからのテレビが機能を発揮すべき役割ではないかと思わせてくれるのである。

今回ご紹介した作品

Netflixシリーズ「正直にお伝えします!?」

配信
Netflixで独占配信中

情報は2024年8月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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