寺脇研さんのドラマ批評 - 財閥家の末息子~Reborn Rich~

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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財閥家の末息子~Reborn Rich~

2025/9/29公開

財閥家に転生し復讐を果たす

画像:財閥家の末息子~Reborn Rich~ 1

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 財閥、と言ってもわれわれ現在の日本人にとっては馴染みのない言葉だ。明治、大正、昭和戦前期に栄え、日本経済の極めて重要な地位を占めたのが、一族独占世襲の形でさまざまな事業の集合体を経営する「財閥」なのだった。江戸時代の豪商が近代経営に転じた住友、三井、明治になって産業を興した三菱、安田が四大財閥と呼ばれた。他にも、多くの財閥が生まれ、近代日本の産業振興、資本主義社会を支えたのである。

 ただ戦後すぐに、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の占領政策で解体を命じられて消滅した。それでも住友、三井、三菱、安田など財閥名を冠した会社がいくつもあるのはその名残であり、財閥一族の経営でなくなっても企業グループを形成して、戦後における高度経済成長に各社が力を発揮している。

 この財閥経営システムが残っているのは、皮肉にも日本の植民地だった韓国、台湾である。韓国における財閥の存在は、ドラマや映画でも度々取り上げられるので御存知だろう。実際には、サムスン、現代、ロッテ、LG、CJ、SKなどが日本人にも知られた財閥企業グループだ。大韓航空など交通系中心の韓進財閥総帥の娘が起こした2014年の国際便機内でのパワハラ事件は、日本でも大きく報道され、一族世襲の弊害を見せつけたのは記憶に新しい。

 このドラマの舞台となるスニャン財閥も、そうした一つだ。偉大な創業者を継いだ長男の現会長は父に比べればいささか頼りなく、次期総帥が予定されるその息子はもっとお粗末に見える。…となると、次男が野心を持ったり自信過剰気味の長女が後継争いに乗り出したりしてしまう。三人の思惑にそれぞれの配偶者も絡み、ややこしい足の引っ張り合いめいた相互牽制が鬱陶しい限りとなる。

画像:財閥家の末息子~Reborn Rich~ 2

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 主人公は、こんな「華麗なる一族」とは無縁の貧しい育ちで、高卒の契約社員だった。それが、重大な陰謀に関与したことから口封じの代償として正社員に取り立てられ秘書室長の職にあるものの、実際は一族の不祥事やわがままの尻拭いをさせられる下僕同然の扱いを受けている。それでも、働く意欲を失った父と弟を養う役割もあるため、黙々と従うしかない。

 挙げ句は、検察から疑われている裏金口座の処理を国外で行う任務を与えられた末に、拳銃で撃たれ断崖から落とされてしまう。これが第1話の終盤だから、え! もう主人公が死んじゃうの? とビックリだ。

 でも実は、ここから本格的に物語が始まるのだった。

 彼が意識を回復したとき、そこはなんと1987年! しかも、彼の身体は11歳の少年になっている。しかも父の意向に反して映画業界に進んだため爪弾きに遭っていた財閥創業者の三男の息子なのだ。だが、そんなとんでもない事態を理解すると、自分を使い捨てにした財閥一族に復讐するため新しい人生を利用しようと考える。

 なにしろ、そこから20年近い未来までの歴史を自分だけは全部知っているのである。まず、87年の大統領選挙で野党候補一本化が頓挫し、劣勢だった与党のノ・テウが当選する番狂わせを予測して、ワンマン権力を持つ祖父から非凡な才のある孫だとの認識を持ってもらえるようになる。半導体事業への助言、さらには同じ年に起きた北朝鮮工作員による大韓航空機爆破事件の航空便に搭乗予定だった祖父を救って、すっかり信頼を獲得してしまう。

 96年には、前世で叶わなかった名門ソウル大学入学を果たし、大学時代は父の映画事業に予言力を発揮する。『ホーム・アローン』を輸入するよう勧めて一儲けすると、今度は製作予定の『タイタニック』に投資させて莫大な利益を得させた。97年のアジア通貨危機の前後では、国際通貨基金(IMF)の救済を受けざるを得なかった韓国経済の落ち込みを前提にアマゾン(ドラマの中ではアマゾム)への投資で儲けるなど、全体が落ち込むのに対し「勝ち組」の立場を維持する。

画像:財閥家の末息子~Reborn Rich~ 3

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 大学卒業する頃には本格的に経済活動を活発化させ、あからさまに財閥一族と対決して復讐を果たそうと動く。キム・デジュン政権下でのソウル市の開発事業でカンナムやヨイドが栄えていく過程もこのへんで描かれる。コンピューターが一斉に誤作動を起こしてしまうのではないかと危惧された「2000年問題」でも、それが起きないのを知っているわけだから儲けの種になるし、01年8月のIMF支援からの脱却。9月のアメリカ同時多発テロによる世界的株式大暴落も承知の上の主人公は、着々と勢力を広げていく。

 そして、03年の日韓共同開催によるサッカーワールドカップだ。誰も予測しなかった韓国チームのベスト4入りを利用した新車販売戦略が大成功を収める。ノ・テウ、キム・ヨンサム、キム・デジュン、ノ・ムヒョンと大統領が替わる十数年を通して、大韓航空機爆破事件、ソウル五輪、通貨危機、2000年問題、ソウルの開発、同時多発テロ、日韓ワールドカップ… 韓国社会の変化や経済活動の推移を順序立てて体験できるのが、このドラマのもたらす効果なのだ。自然と韓国現代史が身に付くに違いない。

 ただ主人公の復讐劇の方は、金儲けのようには簡単に進まない。財閥一族の複雑な人間関係、利害関係が障害物として立ちはだかる。さて結末はどうなるか、それはご自身で辿って行っていただきたい。人間ドラマの組み立て方となると、韓国ドラマはお手の物。感情の結びつき、すれ違い、ぶつかり合いなどの妙を楽しめるはずだ。

画像:財閥家の末息子~Reborn Rich~ 4

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【最近の日本公開韓国映画だと、伊藤博文暗殺を描いた期待の『ハルビン』はちょっと残念な出来でした。むしろ、地味な話ながら人間をきちんと描いた『大統領暗殺裁判 16日間の真実』に惹かれました。財閥の存在は日本と違うわけですが、高齢化と地方の衰退は日韓共通の深刻な問題です。これを真正面から扱った『最後のピクニック』には、両国で知恵を出し合って解決手段を見つけたいと思わされました。】

今回ご紹介した作品

財閥家の末息子~Reborn Rich~

配信
U-NEXTにて配信中

情報は2025年9月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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