寺脇研さんのドラマ批評 - 北極星

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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北極星

2026/4/27公開

現実の世界が抱える状況を考えさせる政治サスペンス

画像:北極星 1

(c) 2026 Disney and its related entities

 主演のチョン・ジヒョンは、『猟奇的な彼女』(2001年)のヒロインとして一躍有名になった女優である。新人賞だけでなく主演女優賞も獲得して、20歳の女子大生は相手役の新人男優チャ・テヒョンと共にスターの座についた。

 この映画は、韓国で大ヒットしただけでなく各国で「『猟奇的な彼女』現象」とも呼ぶべき大きな反響を呼んだ。日本では03年に劇場公開され、ヒットこそしなかったものの、大林宣彦監督やわたしを含め多くのコアなファンを獲得した。08年にはTBS系日曜劇場で連続ドラマ化(主演は田中麗奈・草彅剛)されている。

 中国では、12年にテレビドラマ化されただけでなく、16年には中国・韓国合作映画『猟奇的な彼女2』がチャ・テヒョンと中国女優ビクトリアの共演で製作されている。インドでも劇場公開された他、アメリカで07年に『My Sassy Girl』(日本発売ビデオでは『猟奇的な彼女 in NY』)として映画化されているのだ。

【若き日のチョン・ジヒョン出演作では、他にイ・ジョンジェとの『イルマーレ』(00年)、イ・ジョンジェ、チョン・ウソンとの『DAISY デイジー』(06年)もお勧めです。】

 そのチョン・ジヒョンが四十代になり、少し後に『彼女を信じないでください』(04年)でデビューしたスターで『義兄弟』(10年)や是枝裕和監督の『ベイビー・ブローカー』(22年)でソン・ガンホとコンビを組むなど人気のカン・ドンウォンと恋愛模様を繰り広げるとあっては、韓国映画ファンとして見逃せないドラマである。

画像:北極星 2

(c) 2026 Disney and its related entities

 第一話から、青瓦台の韓国大統領だけでなくホワイトハウスのアメリカ大統領まで登場するスケールの大きな話だ。ヒロインは国連大使を務めるキャリア・ウーマンで、夫は大統領選に立候補する政治家であると同時に巨万の富を有するとあっては、庶民レベルの話とは程遠い。でも、こういうのもたまには良い。世界的規模で展開される壮大な物語に向き合ってみようではないか。

 夫がキリスト教会の平和ミサの最中に暗殺され、まず起きるのが一家の間での財産争いだ。殺される少し前に長年一族で築き上げた莫大な財産をヒロイン一人に贈与していたとなると、義母、義祖母、義弟の怒りは大きい。家族といえども油断できない骨肉の争いとなるが、彼女は企業経営者である義母と取引し、全財産と引き換えに夫の後継者と認めさせ大統領選立候補への全面的応援を勝ち取る。その志は、大国アメリカに異を唱え、世界から戦争をなくし北朝鮮との統一を目指すことにあった。

 そこからは、彼女の決意を快く思わない勢力との闘いになっていく。まずは正体不明の敵からの爆発物によるテロ騒ぎだ。執拗に狙って来る刺客は、度々恐ろしい死の罠を仕掛けてくる。そのとき、強い味方になるのがカン・ドンウォン演じる護衛役である。北朝鮮出身ながら脱北しアメリカ国籍の彼は、世界中で死地をくぐり抜けてきた凄腕のエージェントであり、どんな危険からでも守り抜いてくれる。二人が自然と心を通じ合わせ、特別な関係になっていくのも、無理はない自然の流れだ。

画像:北極星 3

(c) 2026 Disney and its related entities

 後半に入ると、戦争の起こる可能性はエスカレートしていく。ICBM(大陸間弾道ミサイル)を有すると見られていた北朝鮮が、実は原子力潜水艦を完成させ、どこからでも核攻撃できる体制を持つ疑いが出てきて、アメリカはそれを破壊するため戦端を開こうとする。中国やロシアの思惑も絡み、一触即発の状態さえ生じてしまう。大統領選どころの騒ぎではない。

 ここでのヤマ場は、アメリカ軍が戦闘準備に入り在韓アメリカ人に国外退避を促す合図の音楽を流したり、韓国政府が全国に警戒警報を発したりする重大危機の夜だ。ヒロインは、どうやってこの状況を回避させるのか。命を狙われるのを恐れず国民へ向け演説し、ついには、やはり女性である韓国大統領を動かすのである。

 ただ、何度も不気味な姿を画面いっぱいに披露する原子力潜水艦の影は払拭できない。果たして北朝鮮にあるのか、はたまた中東にあるとおぼしい反米国家の国王の手に渡るのか。そもそも、それを建造し、独裁国家に売り込もうと目論んでいるのは誰なのか。謎が謎を生み、彼女と護衛役がこれを阻止できるのかどうか。最後まで予断を許さない。

画像:北極星 4

(c) 2026 Disney and its related entities

 また、周囲に居る誰が味方で誰が敵なのかもわからない。ヒロインは、信頼していた護衛役にさえ疑いの気持を持ってしまうほどである。一方で、彼女の複雑な生い立ち、実父、実母の苦難が影を落とすだけでも話が込み入るのに、義母の人生や嫁姑の確執、夫の婚外子問題まで出現して、いささか複雑すぎる展開になっているのが惜しまれる。

 それでも、大統領から後継に指名され国民の圧倒的支持を得て新大統領への道を歩み始めるヒロインの志が達成されそうな結末には無条件で共感させられる。改めて、平和の大切さを噛み締める思いだ。

 そして、現実の世界が抱える状況についても考えさせてくれるのが重要な点である。このドラマが配信された2025年9月から半年しか経っていないのに、トランプ大統領のアメリカは世界を変え、戦争の方向へ持って行こうとしている。ドラマ内で間一髪免れた北朝鮮との戦争は、トランプがベネズエラやイランに対して行った国際法違反の先制攻撃と同様の作戦だ。中東らしき国「イディシャ」も核武装を試みるイランを思わせる。

 しかも、半年前だったら、北朝鮮とは休戦状態でしかなく正式には戦争が続いているのだから韓国は危ない要素を抱えているんだな、と他人事に受け止めそうだったのに、今の日本は違う。ドラマの女性大統領は、実際に誕生したパク・クネ大統領とは違い、思慮深くアメリカにもきちんと物申す立派な人だからいい。我が国の女性首相は、戦争の危険が迫ったときあんな毅然とした対応ができるだろうか。「世界に平和と繁栄をもたらせるのはドナルドだけだ」なんて言っているのでは心許ない。

 アメリカ軍が北朝鮮に先制攻撃をかけようとする場面で、海軍が出撃するのは横須賀だし、アメリカの原子力潜水艦が攻撃に向かう航路は津軽海峡を通過している。朝鮮半島や台湾が戦場となる時、日本も巻き込まれる確率は限りなく高い。わが首相がドラマの女性大統領と似ているのは愛煙家というところだけではないのか。

 ドラマで重要な論点となっている武器の輸出入は、日本でもその方向へ進もうとしているし、安上がりの安全保障手段としての核武装を口にする政治家や首相官邸スタッフもいるではないか。さらには、ヒロインも夫もスパイ容疑をかけられるのをはじめ何かというと飛び交うスパイという言葉だが、北との交戦状態にある韓国だけでなく、日本でもスパイ防止法が必要との声が高まり、「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」が国会で「国論を二分する問題」として議論されようとしている。

『北極星』で最大の悪役になっている韓国国家情報院のようになってしまう危険性の指摘される「国家情報局(日本版CIA)」も、設置のための法律が審議中だ。日本にも本当にこれらの法律が必要なのか、このドラマを観て真剣に考えてみようではないか。

今回ご紹介した作品

北極星

配信
ディズニープラスのスターで全話独占配信中

情報は2026年4月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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