寺脇研さんのドラマ批評 - メイド・イン・コリア

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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メイド・イン・コリア

2026/6/29公開

韓国産の麻薬取引をめぐり中央情報部と検察が火花を散らす

画像:メイド・イン・コリア 1

(c) 2026 Disney and its related entities

 プサンを舞台に、メイド・イン・コリアすなわち韓国産麻薬の取引をめぐって中央情報部と検察が火花を散らす物語という触れ込みなのに、第一話でいきなり、1970年の日本航空機「よど号」ハイジャック事件が展開されるのには驚いた。しかも、犯人グループのリーダーに大西信満、「よど号」機長に古舘寛治、運輸省(現・国土交通省)の大臣に矢島健一と演技の確かな日本人俳優を起用し、当時の機内や空港をかなり細密に大規模再現した本格的な描き方なのである。

画像:メイド・イン・コリア 2

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 一気に、1970年に引き戻された。当時高校生だったわたしにとって、極めて衝撃的な事件でもあったからだ。韓国、北朝鮮を巻き込む日本で初の旅客機ハイジャックだっただけでなく、犯行に及んだ一団が過激な革命運動で知られる共産主義者同盟赤軍派(いわゆる赤軍派)だったことを重く受け止めた。

 67年頃から69年頃にかけ猛威を振るった「全共闘世代」と呼ばれる学生や労働者である若者たちの政治活動は、67年の羽田事件、三里塚闘争、68年の佐世保エンタープライズ寄港阻止闘争、新宿騒乱事件、68~69年初めの東大安田講堂事件……と続いていたが、69年秋になると急速に鎮圧の動きが進んでいた。

 そこへ、この事件である。デモや大学施設占拠といった段階から、襲撃対象が重要な社会システムである航空交通にまで達したのだ。単なる「学園紛争」ではなく社会全体への挑戦が始まったと受け取れた。鹿児島の高校で3年生になったばかりのわたしは、政治や反体制運動に全く関心はなく本と映画に毎日没頭していたのだが、若者世代が大人社会に闘いを挑む勢いには心動かされた。「よど号」から2ヶ月余り後にあった学校の文化祭で、これを題材の一部にした劇を、脚本を書き演出も担当して上演したほどである。

 そんな1970年、韓国は61年の「5・16軍事クーデター」で権力を握った軍人パク・チョンヒが2期目の大統領の座に就いていた。もちろん韓国でも学生による反体制運動はあったものの、警察の機動隊が相手の日本とは違い軍事独裁政権だから、戒厳令とか軍隊出動とかもあって広がりを見せるのは難しかったようだ。

画像:メイド・イン・コリア 3

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 それより、当時の韓国にとっては、第五話、第六話で語られるベトナム戦争の影響が大きかっただろう。パク大統領は、アメリカに取り入るためベトナムへ積極的に韓国軍を派遣し、64~72年の間に約5万人の将兵がアメリカ軍と共に戦っている。「よど号」事件で1970年の日本を再現したように、このドラマはベトナム戦争の頃のベトナムの街の様子をリアルに描く。そこでは、アメリカの敵「南ベトナム解放民族戦線(ベトコン)」相手に勇敢に戦う軍人たちの姿に止まらず、立身出世を図る者、利権をむさぼる者といった韓国社会の縮図をも展開させるのだ。

 とはいえ、ドラマの本舞台は日本でもベトナムでもなく韓国プサンだ。この街に巣くって麻薬がらみなどで稼ぐ犯罪者たち、それを取り締まる検察組織、さらには大統領に直結して権力を振るう大韓民国中央情報部(KCIA)。なにしろKCIAは、パク大統領自身が起こした軍事クーデターによる政権奪取の産物として軍事独裁政権を支える中枢的役割を果たしていた。警察や検察を超越するばかりか、軍隊より強い権限を持つ。

 刑法より権威ある国家保安法は反国家活動を規制、社会安全法はその国家保安法に違反した者を無期限に刑期延長できると定めているが、この両者を思いのままに操れるKCIAは弾圧も逮捕も拷問も許され、国民の恐怖の的だったという。職員は、その権威を利用してやりたい放題であり、主人公のように麻薬取引を副業とすることさえ可能だったわけだ。

画像:メイド・イン・コリア 4

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 そこまで極端でなくとも、ドラマ後半で描かれる不正蓄財、出世のための陰謀や裏切りなど決して誇張ではなさそうだ。そう、大ヒットしたドラマ『愛の不時着』で知られる人気スターのヒョンビンが演じる主人公は悪役なのである。日本航空の「よど号」を思わせる「日本飛行」の旅客機機内でみごとに乗客乗員全てを救ってみせる真の動機は、自身の麻薬保持を有耶無耶(うやむや)にするためだったわけで、本拠KCIAに戻れば思う存分悪事に勤しむ。

 悪に対して正義が存在しないと対決ドラマは成立しない。一途に正義を振りかざすのは、チョン・ウソンの検事だ。パク・チョンヒ大統領が79年に暗殺され政治が混乱する中で起きた軍事クーデターを描いた映画『ソウルの春』(2023年)では、その後大統領になるチョン・ドゥファン率いる反乱軍を鎮圧するため奔走して力尽きる警備側司令官を演じたチョン・ウソンだが、ここではパク大統領を頂点とするKCIA組織の罪を暴くことができるだろうか。主人公vs検事の二転三転する闘いの行方を見守ろうではないか。

 というのも、明らかにパク・チョンヒとおぼしいこのドラマの大統領も、2期8年と定められた大統領任期を強引な憲法改正で延長し独裁体制を長期化しようとしている。その3期目をを目指す71年の大統領選挙が近づいていることが、悪と正義の勝負に影響してくるのだ。主人公やKCIA幹部が稼ぎ献上する金が、現職大統領側の選挙資金となるのだから、いかにもこの時期の臭いがする。

画像:メイド・イン・コリア 5

(c) 2026 Disney and its related entities

 そうそう、臭いといえば、つい煙草の臭いを思い出してしまうくらい登場人物の喫煙率が高いのも、この時代ならではだ。いわゆる「貰い煙草」が男同士のちょっとしたコミュニケーションの役目を果たしていたり、安そうな紙巻き煙草を吸っていた主人公が出世すると葉巻煙草をくゆらせるようになったりの描写も効いている。

 こうした時代の空気を描く冴えた演出は、それがウ・ミンホ監督の仕事と聞けば納得だ。ソン・ガンホ主演のNetflix配信映画『麻薬王』(2018年)では1970年代の麻薬製造、取引を描いているし、イ・ビョンホン主演の映画『KCIA南山の部長たち』(2021年)ではパク・チョンヒ大統領を暗殺するKCIAの部長が主人公だ。

 そして『ハルビン』(2024年)では、日本が朝鮮半島を支配しようとしていた1909年に中国ハルビンで起きた伊藤博文暗殺事件を扱っている。ヒョンビンが暗殺に成功し朝鮮の英雄となった主人公アン・ジュングン役、チョン・ウソンがアンの昔の仲間で今は満州の馬賊の頭目で特別出演している。加えて、伊藤博文役のリリー・フランキーが、このドラマでは日本ヤクザの大物親分として顔を出しているのはご愛嬌というものか。

 われわれ高齢者には懐かしい1970年代を思い出させてくれ、それより若い皆さんにはあの時代の日本、韓国の歴史を知ってもらえるドラマだ。

今回ご紹介した作品

メイド・イン・コリア

配信
ディズニープラスのスターにて全話独占配信中

情報は2026年6月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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