地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
最後列からの声
2026/7/31公開
才能ある学生が創作した物語が現実を脅かしていく

Netflixシリーズ「最後列からの声」独占配信中
チェ・ミンシクが、韓国映画界を代表する大物スターの一人であることは、誰しも異論ないだろう。
『シュリ』(1999年、カン・ジェギュ監督)で、当時のトップスターだったハン・ソッキュ演じる韓国特殊部隊のエースに対し、全く引けを取らずに死闘を繰り広げる北朝鮮特殊部隊の潜入工作員として脚光を浴び、新人賞を飛び越えて主演男優賞に輝いたのが始まりだ。以来、次々と主演作が話題となる。
ことに、浅田次郎の小説を原作にした『ラブレター ~パイランより~』(2001年、ソン・ヘソン監督)、漫画「ルーズ戦記 オールドボーイ」(1996~1998年、土屋ガロン・作、峰岸信昭・画)の映画化でカンヌ映画祭グランプリを受賞した『オールド・ボーイ』(2003年パク・チャヌク監督)では、日本からも注目を浴びた。
最近でも、『不思議の国の数学者』(2022年、パク・トンフン監督)で秘密を抱えながら生きる老境に差し掛かった主人公の人間像を巧みに表現してくれて健在ぶりを見せている。
その チェ・ミンシクが主演するドラマと聞けば、27年前から追いかけてきた者として、何はなくとも、まずは観なければなるまい。
テーマは、数学ならぬ文学だ。こちらで演じるのは文学を教える大学教授。
便利なコンピューター出欠システムは使わず、授業終了時には必ず受講学生全員を点呼して出席を取る。課題作文は厳しく採点し、内容の空疎なものには「ゴミ」とまで断じる。授業中にイヤホンで音楽を聴いていた者には退席を命じる。……といった具合に、旧態依然の厳格な態度だ。当然、学生たちからは煙たがられている。
そんな中、彼は一人の男子学生が提出した文章に目を留める。恵まれた境遇の友人に対する複雑な思いを抱く自らの心情を率直に吐露しており、筆致もしっかりしていたからだ。このテーマを書き続けろと勧め、週1回の文学個別指導を持ちかける。貧しさ故アルバイトが忙しく無理だと辞退されると、その時間分のバイト代相当額を出してやってもいいとまで言うご執心ぶりだ。

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というのも、彼自身、売れっ子作家として活躍している大学時代の同級生に対してコンプレックスを感じていたのが影響している。20年前、書いた小説をこの作家に酷評されて筆を折った過去に、今でも拘りがあるのだ。大学の他学科に招かれて来訪した作家と久しぶりに会い、格の違いを思い知らされた彼は、件の文才ある学生を育て上げ、新人文学賞を獲得させることで、その差を埋めようと考えた。
そしてとうとう犯罪まがいの行為にまで及んでしまう。
小説に仕上げるため学生に書かせている話は、家族もなく簡易宿泊所で暮らすうち、しょっちゅう訪ねるようになった友人の家でその両親に気に入られ、味わったことのない家族愛に憧れていく過程を描くものだ。それは、学生自身の実際の生活を基に自らの心理の推移を細密に綴る〈私小説〉と呼ばれる形式である。
話の基盤となる友人の両親から受ける親愛の情が自分の軽率な行動で怪しくなり、それを回復するためには友人とのコンビで挑むプログラミング大会で好成績を収め喜ばせるのが必須なのだと切実に訴える学生は、その大会で出題される内容を盗んでほしいと主人公に懇願する。厳格な教員である彼はもちろん断ったのだが、作家との再会で気が変わり、悪事に手を染めることとなった。

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そうなると最早、教授対学生という指導側と受講側の関係ではなくなり、二人は「共犯者」なのである。小説を完成させてほしい一心の主人公は、逆に学生から操られるようになっていく。首尾良く優秀賞を獲得し、とうとう友人の両親から家族扱いされることになり同居を許された学生が、その家の中で節度をわきまえない振る舞いをしても、物語を面白くするためだと目をつぶる。
しかも、学生が入り込んでいく先が最初は不特定の「とある家庭」だと認識していたのが、途中で自らのコンプレックスの原因である作家の家庭だとわかると、主人公は私情丸出しになっていく。さらに因縁は深く、作家の妻は、彼が学生時代に思いを寄せていた女子学生なのだ。今もなお思いを捨てきれない相手と作家との夫婦の家庭生活を覗き見る昂奮と嫉妬が、主人公の平常心をどんどん揺るがせていく。
そして、学生が暴く作家の家庭の内幕は、ただならぬ展開となっていく。作家は家政婦と不倫の仲になっており、しかも彼女の姉が書いた小説を盗作したという。その秘密を握られているが故に家政婦の言いなりになっていた作家は、あろうことか、交通事故に遭った彼女を、運び込まれた病院で殺害したのではないかとの疑いまであるというのだ。
作家の息子である学生の友人が父の犯行ではないかと疑っているだけでなく、主人公が思いを寄せる作家の妻もまた、息子から聞いて疑念を膨らませているという。そのくだりを読んだ主人公は遂に逆上し、学生に対し、殺害の場面を捏造して書けと命じる。それを小説として発表し、作家を破滅させようというわけだ。断られると、今度は自分でその場面を加え自作小説第二作に仕上げる……。

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ここまで来ると、小説という虚構が虚構では済まされなくなり、実人生まで狂わせてしまう恐ろしさが、ドラマを観ているわたしたちにも伝わってくる。いや、このドラマ自体が虚構なのだから、さらに複雑だ。ここまで自分の観てきたドラマが描くストーリーは、果たして作品世界の中における真実なのか作り話なのか。
結末は伏せておこう。虚構と現実との関係性について、深く考えさせられるはずだ。その意味で、知的な面白さに満ちたドラマである。導入部にはコミカルな描写さえあるのだが、進むにつれ深刻な描写の連続となる展開も巧みに構成されている。
同時に、日本で言えば昭和世代に当たる主人公がZ世代である学生に翻弄される全体構造は、われわれ年輩男性には身につまされるところも多いのではなかろうか。
あ! ということは、昭和オヤジに悩まされている女性や若者には痛快なのかな。
今回ご紹介した作品
Netflixシリーズ「最後列からの声」
- 配信
- Netflixにて独占配信中
情報は2026年7月時点のものです。














