池田敏さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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AND JUST LIKE THAT.../
セックス・アンド・ザ・シティ新章

2022/04/25公開

海外ドラマの金字塔SATC。50代になった主人公たちに”突然”訪れる人生の転機

©2021 WarnerMedia Direct, LLC. All Rights Reserved. HBO Max™ is used under license.

 日本で海外ドラマ好きの女性が増えたことに最も貢献したのは『セックス・アンド・ザ・シティ』(1998~2006年)だ。前後して『24 -TWENTY FOUR-』(2001~10年)や『ゴシップガール』(2007~12年)が果たした功績も大きいが、以前から海外ドラマを見続けていた筆者(初老のおっさん)にとって、「日本の若い女性もついに海外ドラマに夢中になったか」と驚いたのは『セックス・アンド・ザ・シティ』だった。

 ニューヨークで暮らす大人の女性4人(番組開始時点で全員独身)を主人公に、都会での男女の出会い・恋愛を主要なテーマとし、ファッションやナイトライフなど、とびきりおしゃれな要素を満載。なおかつ女性と仕事・家族・社会の関係という真面目な問題にも迫り、日本の女性たちからも共感を呼んだヒット作だ。

 しかし番組の後半、4人のうち、シャーロット(クリスティン・デイヴィス)、ミランダ(シンシア・ニクソン)が結婚し、後に作られた映画版第1作でキャリー(サラ・ジェシカ・パーカー)も結婚したことでテーマは完結したように思ってしまった。そんな『セックス・アンド・ザ・シティ』をドラマ版から17年ぶり、映画版第2作から11年ぶりに復活させた続編が『AND JUST LIKE THAT... / セックス・アンド・ザ・シティ新章』。

 主人公の女性たちがいずれも50代となり、セックスはテーマにしづらいのではと疑ったが、この続編の原題は『And Just Like That…』だけ。意味は「あっという間に」「突然に」というもので、50代になっても人生に“突然”訪れるあれこれを描くという作り手たちの意図は明確。筆者と同世代の人々に新たな感動を誘う秀作だ。

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 まずキャリーに大事件が起きる。見てのお楽しみなのでふれないが、彼女は人生をリセットせざるを得なくなる。生活の心配をする必要がないほどリッチでも、大人だからこその孤独や老いとどう向き合うかが新たなテーマだ。辞職して大学院に入ったミランダは中年の危機に直面してか、アルコールに依存しそうになる。4人で最もとぼけたシャーロットも養子と実の娘が思春期で、子育ての問題に悩む。しかし前作と同様、ニューヨーク生活のおしゃれさ(衣装を担当するのは従来のパトリシア・フィールドの弟子筋のモリー・ロジャーズ)、笑えるシモネタ(セックスの要素をゼロにしなかったのは賢明)をラッピングすることで、シリアスにし過ぎない手つきは絶妙で、コメディという表現形式を最大限に活用している。

 前作以上にクローズアップされるのは健康の問題。たとえばマノロ ブラニクのハイヒールを溺愛するキャリーは“突然”、腰痛になってしまう(原因はハイヒールのせいではないが)。確かにこれまでキャリーは歩いていて転ぶシーンが多かったが、めげずに立ち上がるのが彼女のチャームポイントだった。入院中のベッドでもおしゃれなのが彼女らしいし、シャーロットもミランダもそばにいて微笑ましい。

 一方で“攻めた”部分も多く、コラムニストだったキャリーはポッドキャスト(編集部注:スマホやPCで聞ける音声番組)の世界での再活躍を、ミランダは人権問題の弁護士をそれぞれめざす。白人中心という点で保守的だった前作と異なり、アフリカ系の教授、ヒスパニックのコメディアン(しかも男女のいずれにも属さないと考えるノンバイナリー)、インド系の不動産業者など、米国のダイバーシティ(多様性)を反映した新女性キャラが次々と登場するのは刺激的だ。

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 前作のファンが不満を感じる部分もある。一番残念なのはかつての4人組の1人で最もセックスへの関心が強かったパワフルキャラ、サマンサ(キム・キャトラル)の不在だ。キャリー役のパーカーとの不仲説など噂は尽きないが、一方、台詞や小道具でサムが健在であることは示される。大人の女性の友情という本作最大の宝石は、まだ輝いている。

 好評を受け、すでにシーズン2の製作が決定。大人の物語なら“不倫”“離婚・再婚”というモチーフも掘り下げてみてほしいが、何が“突然”起きるか分からないのが人生であり、ニューヨークの街角なのである。

予告編

今回ご紹介した作品

AND JUST LIKE THAT.../セックス・アンド・ザ・シティ新章

U-NEXTにて見放題で独占配信中

情報は2022年4月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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