地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
ブリジャートン家
2022/05/18公開
19世紀初頭のイギリス社交界を舞台にしたラブロマンス。豪華絢爛の衣装・メイクにも注目
Netflixシリーズ『ブリジャートン家』シーズン1~2独占配信中
2020年12月に世界で配信が始まってから4週間で、6200万強の世帯が見たとされるスーパーヒットドラマが『ブリジャートン家』。今年3月、シーズン2の配信が始まり、すでにシーズン3・4も製作が決まっている。
1813年のロンドン。子どもが8人いる貴族のブリジャートン家の4人目の子どもで、長女であるダフネ(フィービー・ディネヴァー)はデビュタントで注目の的に。多くの貴族の娘は魅力的な結婚相手を見つけようと必死で、ある“新聞”に次々と載るスキャンダルにも夢中。ダフネは、結婚願望がないヘイスティング公爵、サイモン(レジェ=ジーン・ペイジ)と知り合い、交際しているふりをしようと密約を交わし、社交界を混乱させる。
Netflixシリーズ『ブリジャートン家』シーズン1~2独占配信中
当時の実在の人物も少し登場するが、歴史の知識ゼロでも楽しめるラブストーリーだ。ダフネとサイモンが本当に恋仲になってしまう予想通りの展開はいわゆる“ベタ”。一方、結婚を急ぐ女性たちの人間模様も、苦笑あり・涙ありでスピーディーに描かれる。
どこが面白いかというと、現実は白人しかいなかったはずの英国社交界だが、白人以外もアフリカ系など、多様な人種の俳優陣が演じているのだ。本作の作り手たちは、あえて史実を無視しているというから思い切った。多様性(ダイバーシティ)もここに極まれりだ。とはいえ色々な人種の美男・美女が時にTVで見られないようなベッドシーンを演じるのだから、Netflixならではとも言える。
“新聞”からスキャンダルが拡散するのが19世紀らしいが、昔も今も噂好きは多い。当初は、『ゴシップガール』(2007年~)、そしてやはり昔の英国貴族の屋敷が舞台の『ダウントン・アビー』(2010~2015年)からの影響を指摘する声が多かった。
それにしても社交界なので、とことんおしゃれで華麗だ。衣装・メイクに加え、“TV界のアカデミー賞”エミー賞やメイク方面の組合賞で受賞を果たしたヘアスタイリングは筆者(初老のおっさん)でさえ高品質と納得。米国のドラマながら英国のあちこちでロケをしたのも、味のあるムード作りに貢献。
Netflixシリーズ『ブリジャートン家』シーズン1~2独占配信中
さらに新型コロナウイルス禍も追い風に。多数ある盛大なパーティー場面は、こんな時代だからきらめく。シーズン1の収録が終わったのは世界中でドラマ・映画の製作が止まる直前、2020年2月だったのはラッキーだ。
本作には原作があり、米国の女性作家ジュリア・クインによる、第1作『恋のたくらみは公爵と』(竹書房ラズベリーブックス)に始まる“ブリジャートン”シリーズ。これをドラマ化する企画に目を付けたプロデューサーの1人がションダ・ライムズ。海外ドラマ好きなら名前を覚えておくべき理由がある。
ライムズは長寿病院ドラマ『グレイズ・アナトミー』(なんとシーズン18が全米放送中/2006年~)で注目を浴び、その後、『スキャンダル』(2013~2017年)『殺人を無罪にする方法』(2014~2020年)とヒットドラマを連発。一説によれば以上のドラマを放送した全米ABCネットワークと一年あたり1000万ドルを得られる契約を結んでいたが、それからNetflixと推定年俸1億ドル以上の契約をし、この『ブリジャートン家』などのヒットによって推定年俸3~4億ドルで契約を更新したという。これでライムズは全米のドラマ業界で最も稼ぐクリエイターとなった。
アフリカ系米国人であるライムズは、『グレイズ・アナトミー』でもアフリカ系やアジア系の俳優陣を積極的に起用したが、先がけた出世作『アカデミー 栄光と悲劇』(TV用映画/2003年)ではアフリカ系女優ハル・ベリーにエミー賞の主演女優賞をもたらした。そして脚本を担当した、ハリウッドでの初成功映画『プリティ・プリンセス2/ロイヤル・ウェディング』(2004年)に出演していた名女優ジュリー・アンドリュースを、この『ブリジャートン家』で“新聞”のコラムニスト役の声優に起用。この勢いはしばらく止まりそうにない。
予告編
今回ご紹介した作品
ブリジャートン家
Netflixで独占配信中
情報は2022年5月時点のものです。