地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
TOKYO VICE
2022/06/03公開
マイケル・マンがオール日本ロケで描く、超大作ドラマシリーズ。豪華日米スター共演にも注目
©TOKYO VICE
日本のWOWOWと米国のHBO Maxが組んだ、スケールの大きい合作。ハリウッドから一流のスタッフ・キャストが来日して東京ロケが始まったのは、一昨年春、新型コロナウイルス禍が始まった頃だった。
1999年の東京。日本の大学に通う米国人青年ジェイク(アンセル・エルゴート)は、明調新聞の入社試験に合格し、警察担当記者になる。特ダネを求める彼はヤクザに関心を抱き、刑事の片桐(渡辺謙)と宮本(伊藤英明)、ヤクザの佐藤(笠松将)に近づく。
HBO Max / James Lisle
原作は『トウキョウ・バイス: アメリカ人記者の警察回り体験記』。著者のジェイク・エーデルスタインは上智大学を卒業後、ある大手新聞社初の外国人記者となり、日本の暴力団を取材し続けた自身の経験を下敷きにした。
そんな小説をドラマ化し、製作総指揮と第1話の監督を務めたのはマイケル・マン。『ヒート』(1995年)『コラテラル』(2004年)などのアクション映画で知られるが、ドラマと映画の『マイアミ・バイス』(1984~1989年、映画版は2006年)のキーパーソン。本作の原作のタイトル中にある「バイス」という単語が、このベテラン監督を突き動かしたのだろう。
まず感心するのは、1990年代後半の東京の再現。TVはどれもブラウン管で、記者も刑事も喫煙者ばかりと、当時の日本が思い出される。当時より高層ビルが多い夜景ぐらいしかおかしな点はない。海外作品に多い“なんちゃって日本”が極めて少ないのである。
以前にも東京でロケをしようとしたハリウッド映画がある。マイケル・ダグラス、高倉健、そして松田優作が共演した1989年の『ブラック・レイン』。しかし昔から東京は映画のロケ撮影に対して厳しく、この映画は大阪など関西地方でロケをした。結果的にハリウッドと関西の組合せは異色のオリエンタリズムを生んだとはいえ、多くの海外の映画人たちの間で「どうやら東京ロケは大変らしい」という声が定着してしまった(それでも東京でロケを敢行した作品は少なくないが)。
しかし本作はスタッフが尽力し、東京で大々的にロケをした。場所によっては1990年代っぽさが多く残る赤羽など、路地の空気感はどんなに精巧なCGでも醸せないだろう。
HBO Max / Eros Hoagland
そしてマン自身が監督した第1話にはヤクザの会合の場面があるが、これほど本格的な描写は日本映画でもご無沙汰だ。筆者は映画版『マイアミ・バイス』の編集作業中だったマン監督に取材したが、世界の犯罪組織事情に精通していたので大いに驚かされた。
俳優陣が素晴らしい。世界的に活躍する渡辺、伊藤、菊地凛子(ジェイクの上司役)、山下智久(なんと歌舞伎町のホスト役)、菅田俊の魅力は期待通りだし、片桐の妻役、板谷由夏が少しだけの登場なんてゼイタク。
さて本作、もしも違和感を覚えるとしたら英語を話せる日本人の多さだが(そこはハリウッド流)、演じる俳優陣の経歴を見ると海外暮らしの経験がある人が多く、世界で見られるための大作だと痛感。無名でも演技力プラス語学力を重視。最高のキャスティングだ。
出演陣だけでなく、スタッフの顔ぶれにも日本出身者が多い。第4・5話を監督したHIKARIは、南カリフォルニア大で映画作りを学び、日本映画『37セカンズ』を手がけた女性監督。第4話の脚本を担当したナオミ・イイヅカは東京生まれの劇作家で、撮影を担当したのは北野武監督作品の常連、柳島克己(第8話も)。第2話など計4話を監督したジョゼフ・クボタ・ウラディカも、ルーツのひとつは日本だとか。彼らならではのリアリティーが作品全体にみなぎっている。
何より圧巻なのは猛特訓したという主演男優エルゴートの日本語。いずれも日米合作史で語り継がれていくにちがいない逸品だ。
予告編
今回ご紹介した作品
TOKYO VICE
WOWOWにて独占放送中(全8話)
WOWOWオンデマンドにて独占配信中【無料トライアル実施中】
情報は2022年6月時点のものです。