池田敏さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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私立探偵マグナム

2022/07/18公開

美しいハワイの陸・海・空に美男美女バディが映える、痛快娯楽劇

©2018 CBS Studios Inc. and Universal Television LLC. All Rights Reserved.

「海外ドラマは見始まると止まらなくなる」という嬉しい悲鳴を聞くようになったのは、ヒット作『24 -TWENTY FOUR-』(2001~2010年)あたりからか。一方、毎日ご飯を食べたりお風呂に入ったりするように、日常の一部にして味わいたいタイプの海外ドラマの価値も忘れてはならない。何かしながらでも楽しめる類の良作だ。

 筆者は本連載で“見始まると止まらなくなる”海外ドラマをご紹介してきたが、“いや週に1度位新作が見ればいいし、ご飯を食べながら見ても大いに満足できるタイプのドラマもある”といつかお伝えしたいと願ってきた。その種の海外ドラマで現時点、最高の逸品が『私立探偵マグナム』(2018年~)だ。

 舞台は太平洋の楽園、ハワイのオアフ島。私立探偵兼セキュリティー・コンサルタントのトーマス・マグナム(ジェイ・ヘルナンデス)は大物作家から仕事をもらい、彼のゴージャスな別荘のゲストハウスに滞在し、別荘にある高級車の一台、フェラーリを借りている。華やかに見えるが、実は経済的には不安定。しかし元海軍特殊部隊のタフガイだ。

 そんな彼には仲間たちがいる。別荘を管理する女性の執事ヒギンズ(パーディタ・ウィークス)、マグナムの軍隊時代の戦友、リック(ザカリー・ナイトン)とTC(スティーブン・ヒル)、地元出身女性クム(エイミー・ヒル)ら。彼らは次々と難事件に挑む。

 昔からよくある私立探偵ものじゃないの、と尋ねられたら、「はい」としか答えようがない。ほとんどのエピソードで事件は解決するので、見終わった直後は「あー、楽しかった」とすっきりとした気分になる。筆者(初老のおっさん)の少年時代は『太陽にほえろ!』『西部警察』などそうしたドラマが多く、大人になった後も『踊る大捜査線』などを楽しんだ。いわゆる“連続ドラマ”ではなく、“一話完結形式”である痛快娯楽編だ。

©2018 CBS Studios Inc. and Universal Television LLC. All Rights Reserved.

 もっとシンプルに、「各話を見ればハワイに行ける」のも夢がある。米国TV界においてハワイを舞台にしたドラマは半世紀近い間、必ず1本はあることが多かった“お家芸”だ。後に『HAWAII FIVE-0』(2010~2020年)としてリブートされる『ハワイ5-0』(1968年~1980年)がその原点だが、これに続いたのが本作の原作となった元祖『~マグナム』(1980~1988年)。強く言いたいのは『HAWAII FIVE-0』が好きだった人なら、このリブート版『~マグナム』も楽しめること。

 しかし大きなツッコミどころがある。現実のハワイ州は全米の各州と比べて凶悪犯罪が起きていないのだ。10年位前のデータによれば殺人事件は年に十数件しか起きておらず、州別だと下から4番目だった。理由はいくつか考えられるが、周囲を海に囲まれていて、犯罪者も逃げづらいと分かっているからか。

 そんなハワイの島々は、リアルでもファンタジーと相性がいい。最新作の公開が近いSF大作映画『ジュラシック・パーク』シリーズ(1993年~)や、謎の島を舞台にしたヒットドラマ『LOST』(2004~2010年)など、多くのファンタジー作品がハワイでロケをしている。

 イケメンのマグナムと美人執事ヒギンズ(実は英国で“007”と同じスパイ組織に所属していた)が仕事上の関係を超えて恋に落ちるかどうかも本作の気になる展開だ。しかしそんな甘めの見どころを配置する一方、本作はマグナム・リック・TC、そしてTCのヘリツアー会社で働くようになる、車いすに乗った帰還兵シャミー(実際に車いすに乗って暮らす俳優クリストファー・ソーントンが演じる)らのヘビーな戦場体験と彼らが育てる友情を通じ、見る者を現実に引き戻す瞬間がある。彼らの関係性を描く“連続ドラマ”の要素が絶妙な隠し味として機能している。

予告編

今回ご紹介した作品

私立探偵マグナム

DVD
シーズン1 <バリューパック>
5,217円 (税込)
発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント
商品詳細は、NBCユニバーサルHPよりご確認いただけます。(カタログハウスのサイトの外に移動します)
配信
以下の配信サービスで視聴できます。
Amazonプライムビデオ/U-NEXT/Hulu

©2018 CBS Studios Inc. and Universal Television LLC. All Rights Reserved.

情報は2022年7月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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