地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男
2022/08/19公開
歴史的傑作『ゴッドファーザー』製作の舞台裏を描く実録エンターテイメント
©2022 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
ちょうど半世紀(50年)前の1972年。米国で成功が期待されない映画が公開されがちな3月、ある衝撃的な映画が全米で大ヒットした。しかも翌年発表の第45回アカデミー賞では作品賞など3部門を制し、名作という評価は今なお揺るがない。それが映画『ゴッドファーザー』。本作はその完成までの舞台裏を全10話で描く、骨太の実録ドラマである。
ニューヨークのイタリア系コミュニティに根づいた犯罪集団“マフィア”の世代交代を描いた原作小説は、売れない作家マリオ・プーヅォが書いてベストセラーに。だが当時のハリウッドでギャングは時代遅れの題材と見なされていた。しかし映画化が決まると、事態はうねり出す。混乱した米国の1970年代だが、直後には同じくイタリア系の青年が主人公の映画『ロッキー』(1976年)もあり、陽と陰、両方のアメリカンドリームがあった。そして本作は後者だ。
業界外から転職し、TVドラマのプロデューサーになったアルバート・ラディ(『トップガン マーヴェリック』でルースター役を演じたマイルズ・テラー)は映画を作りたいと切望。大手映画会社パラマウント社の重役ロバート・エヴァンス(マシュー・グード)に師事するが、小説『ゴッドファーザー』を映画化してみないかと持ちかけられる。しかし題材であるマフィアを説得すべく彼らに近づいて危険な目に遭ったり、監督に抜擢した新人フランシス・フォード・コッポラ(『ファンタスティック・ビースト』シリーズでジェイコブ役を演じるダン・フォグラー)が芸術性を理由に予算をオーバーし続けるなど、数々の困難が待っていた。
©2022 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
まず面白いのは、ギャングを題材にした映画のスタッフが、本物のギャングと接するうちに、常識を失っていくという皮肉。リアルなギャングの世界は描きづらいが、本作はブラックユーモアをまぶし、視聴者に嫌悪感や違和感を与えない。
ラディはとにかく『ゴッドファーザー』を完成させようと悪戦苦闘するが、当時のパラマウント社は親会社(たくさんの業種の会社からなるコングロマリットのガルフ・アンド・ウエスタン)に支配され、ハリウッドが黄金時代から凋落したことを示す、負のシンボルでもあった。だから映画の内容なんてどうでもよく、利益にしか関心がない親会社の経営陣も障壁に。ある意味、日本の『半沢直樹』のような逆転ビジネスドラマでもある。
何せ、『ゴッドファーザー』が成功すると見る者はほぼ全員知っているのに、それでも期待を超えたレベルで緊迫感・興奮・感動を楽しませてくれるのが力強く、見応え満点。『ゴッドファーザー』完成後のあるシーンは、これが史実でなく嘘だったとしても素晴らしいという名場面になっている。
©2022 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
そして『ゴッドファーザー』の中でマフィアの一家=“ファミリー”の結束は強くなるが、この映画に賭けた人々もトラブルに直面すればするほど“ファミリー”のような関係性を強めていくのが最大の見どころである。いけすかないエヴァンスが自分の映画を守ろうと奔走するなど、意外な展開も多い。
恐らく若い人たちは、以上の登場人物陣や『ゴッドファーザー』に出演した名優たち、マーロン・ブランド、アル・パチーノらについて予備知識がないだろうが、それらは後から調べるので充分。しかし、同じくU-NEXTで配信されている映画『ゴッドファーザー』の第1作だけはさすがに見ておきたい。
さて実は続編『ゴッドファーザーPARTⅡ』(1974年)に参加しないスタッフは多かった。第2作、第3作と進むうち、『ゴッドファーザー』の中の“ファミリー”も壊れていく。華やかさの裏にある哀感は本作の隠し味だ。
予告編
今回ご紹介した作品
ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男
U-NEXTにて独占配信中
情報は2022年8月時点のものです。