地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
ザ・オールド・マン~元CIAの葛藤
2022/10/17公開
ジェフ・ブリッジス主演。元CIA vs現役FBIの息もつかせぬ逃亡劇。
©2022 Disney and related entities ディズニープラスで独占配信中
「必ず続きが見たくなる」と評判のサスペンス系連続ドラマは多数あるが、その最新版が本作だ。ハリウッドの2大ベテラン男優、ジェフ・ブリッジスとジョン・リスゴーが顔合わせし(後述)、シーズン2への継続が決定。
ニューヨーク州郊外の田舎で30年暮らしてきた老男性ダン・チェイス(ブリッジス)はある晩、武装した男に自宅で襲われるがダンは相手を撃退。しかし捜査に来た地元警察は気づく、侵入者が持った拳銃にプロの犯罪者が使うようなサイレンサー(消音器)が付いていたことに。その時すでに、すべてを悟ったダンは全力で逃走を開始していた。
実はダンはCIA(米中央情報局)の元エージェント。過去をすべて捨てて平穏に暮らしていたが、巨大な組織に命を狙われたのだ。そんなダンを追うチームの責任者はかつての彼の仲間であるエリートのハーパー(リスゴー)だが、ダンに電話をかけて捕まってほしくないと告げる一方、チームがありとあらゆる方法でダンを追い続けるという矛盾。
ダンがまるでこうなることを見通していたかのように、各地で借りたセーフハウス(隠れ家)を転々としていくのが面白い。お年寄りであっても最新スパイ事情に精通した上、射撃も運転も得意。まさにあなどったらおしまいの“オールド・マン(老いた男性)”だ。
©2022 Disney and related entities
また、誰がダンの味方か敵か、予想できないのがスリリング。さらに並行して、どうしてダンが世捨て人のような生活をせざるを得なくなったかが、アフガニスタンを舞台にした回想シーンの数々を通じて明かされていく。
ダンの年齢は詳述されないが、アフガニスタン紛争が1978~89年に起きたことから、演じるブリッジスに近い70歳前後と思われる。タフなヒーローは珍しくないがそれにしてもダンは高齢で、彼が年齢を感じさせない活躍を続けるのが痛快だ。ひとつネタバレすると、ダンが飼っている2匹の犬は主人を守ろうと奮闘するが、同時にダン自身が権力の“犬”だったことのメタファーかもしれない。
ダン役のブリッジスはハリウッドで約半世紀も活躍し、映画『クレイジー・ハート』(2009年)で第82回アカデミー賞の主演男優賞を受賞。もしもこのドラマが20年前に作られていたなら、ダン役はクリント・イーストウッドがはまり役だったかもしれない。そんなイーストウッドと共演した『サンダーボルト』(1974年)で、ブリッジスはアカデミー賞の助演男優賞にノミネートされた。ハーパー役のリスゴーも『ガープの世界』(1982年)と『愛と追憶の日々』(1983年)でアカデミー賞の助演男優賞に2度ノミネートされ、トニー賞とエミー賞を制した芸達者。ブリッジスとリスゴーが醸す化学反応は映画好きも必見だ。
第1・2話の監督を務めたジョン・ワッツは『スパイダーマン:ホームカミング』に始まった映画3本のシリーズを大成功させたばかり。現在41歳なのに2大ベテラン男優の魅力を引き出した手腕は確かだ。また第1・2話の見せ場には、アクション映画好きの筆者も思わず「そう来たか!」と膝を叩いた。
それにしてもちょっと笑ってしまったのは、“用意周到にもほどがあるジジイ”(?)、ダンが用意していたセーフハウスの数々が豪華なこと。恐らくはCIA時代、かなり経費を横領していたような……。それでも先に挙げた、“サイレンサー”を外し忘れた件を後悔するなど、確かに老いを感じさせることも。
いずれにせよ、見る者の予想をことごとく裏切るノンストップアクションの秀作であるのは間違いがなく、悪性リンパ腫の闘病中だというブリッジスが引き続いて主演するシーズン2への期待は高まるばかり。全7話のこのシーズン1、まずはイッキ見推奨だ。
予告編
今回ご紹介した作品
ザ・オールド・マン~元CIAの葛藤
ディズニープラスで独占配信中
情報は2022年10月時点のものです。