池田敏さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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LOVE LIFE/ラブ・ライフ

2023/01/04公開

ミレニアム世代の生き方をリアルに描くロマンチックコメディ。

「LOVE LIFE/ラブ・ライフ」Huluで配信中
©MMXX Lions Gate Television Inc. All rights reserved.

 いま40~50歳台の女性が20~30歳台で夢中になった海外ドラマといえば『SEX AND THE CITY(SATC)』だろうか。では現在、20~30歳台の女性にマッチした海外ドラマはどれか。筆者ならこの『LOVE LIFE/ラブ・ライフ』を挙げる。

『SATC』との共通項は多い。まず舞台はニューヨーク。主人公は20歳台の女性ダービーで、彼女はキャリアアップをめざす一方、パーティーなどのプライベートや仲間たちとの友情、そして恋愛を楽しむ。『SATC』の4人組にいてもおかしくないキャラだ。

 ダービー役を演じるのは『ピッチ・パーフェクト』など映画界でも活躍するアナ・ケンドリック。もう37歳になるが(トニー賞やアカデミー賞にノミネートされた実力派でもある)、ルックスがチャーミングな上、身長は一説によれば157cmとハリウッド女優としては小柄で、20歳台の役もはまっている。

『SATC』に比べると、より身近なドラマだ。第1話、学生時代に恋愛の経験が無かったダービーは韓国系の青年と恋に落ちるが、出会いの場はカラオケ店。そして『SATC』で主要キャラ4人が経済的に自立していたのに対し、ダービーは同年代の女性たちをルームメイトにしている。つまり2008年の“リーマン・ショック”後の若い女性たちを題材にしているが、いずれも仕事で忙しいからか、『SATC』ほど性に溺れていない。LOVE(愛)とLIFE(生活&生命)というタイトルに、作り手の力強いメッセージを感じる。

 また『SATC』は白人女性のファンタジーという側面があったが、本作の登場人物の人種は多様化され、それも現在にふさわしい。ドラマの中で明かされないが、ロケ地はニューヨークの中心マンハッタンから少し離れたクイーンズ。物価上昇が続く米国だが『フレンズ』の時代と異なり、いくらルームメイトと家賃を払ったとしても、マンハッタンで若者が暮らすのはもう無理。そこで多くの人種が集まるクイーンズに住むのはリアルだ。

 また、インスタグラムなどのSNSが物語で重要になることが多く、そこもやはり『SATC』に比べると時代の進化を感じさせる。

 そして本作の一番の見ものは、シーズン1の全10話、ほとんどのエピソードでヒロインのダービーに新たな出会いが待ち受けるが、彼女は失恋する。「ヒロインがほとんど毎回失恋するドラマなんて見たくない」? いや、シーズン1は2012年から7年間のダービーを描き、彼女はそこで短い恋も長い恋もする。各話のタイトルは10話中8話、彼女が出会う男性の名前だが、その中の2人は再登場をする。7年で6人(正確には5人だが)と恋をして、ダービーは女性としても人間としても成長していく。

「LOVE LIFE/ラブ・ライフ」Huluで配信中
©MMXX Lions Gate Television Inc. All rights reserved.

 ダービーが自分から恋人に別れを切り出すこともあれば、反対にふられることもある。55歳のおっさんである筆者から見ても、とてもリアルで自然。いい青春だなぁと思う。

 ちなみに製作総指揮を主演のケンドリックらと務める一人は、『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』などの映画監督ポール・フェイグ。コメディ映画の名手ジャド・アパトーと仲がいい逸材だ。

『SATC』との共通項はもうひとつ。この『LOVE LIFE~』、全米ではHBO Maxで配信されたが、『SATC』はその母体のTVチャンネル、HBOで放送された。だからまるで“リーマン・ショック”後の新時代に若返った『SATC』のように思えてならない。

 そんなHBO Maxのドラマは、日本ではあちこちの動画配信サービスで取り上げられているが、だからか、全米で2021年10~11月に配信されたシーズン2が日本では未公開。見られる日が訪れるまで、ぜひシーズン1を楽しんでおきたい。

予告編

今回ご紹介した作品

LOVE LIFE/ラブ・ライフ

Huluにて独占配信中

情報は2023年1月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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