池田敏さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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リクエスト

ウェンズデー

2023/02/24公開

全世界で人気爆発。ティム・バートン監督の謎解きミステリー

Netflixシリーズ「ウェンズデー」独占配信中

 2022年に始まったNetflixの新作オリジナルドラマで最も成功したのがこの『ウェンズデー』。配信開始から3週で、台詞が英語のNetflixオリジナルドラマ史上最も見られた作品・第2位となり、今年1月にシーズン2への継続が決定。ちなみに同じランキングの第1位は『ストレンジャー・シングス 未知の世界』のシーズン4で、英語以外の作品も合わせると『イカゲーム』が第1位だそう。

 このドラマには原作がある。1964年からTVドラマ版『アダムスのお化け一家』が2シーズン作られ、1990年代に実写映画版2本が作られるなど、映像化と相性がいい名作コミック『アダムス・ファミリー』だ。そして2010年、ハリウッドの名監督ティム・バートンはストップモーションアニメ(人形を使うコマ撮りアニメ)で映像化に挑んで挫折したが、そんなバートンが再奮起し、先鋭的ビジュアル感覚とダークな世界観を貫き、全8話のうち第1~4話を監督したのが『ウェンズデー』。映画ファンも絶対に見逃せない。

 ヒロインは確かに“お化け一家”と呼ばれてもおかしくないほど不気味な一家、アダムス家の長女ウェンズデー(ジェナ・オルテガ)。彼女は普通の高校に通うが(という時点でかなりどうかしているが)、問題児として転校せざるをえなくなる。転校先は両親も通ったネヴァーモア(意訳すると“ここでおしまい”)高校だが、そこは“のけ者たち”と呼ばれる、いわばモンスターの子息が集まっていた。全部が気に食わないのと同時に、何に対しても動じることがないウェンズデーは、そこで起きる怪奇現象の解決に励む。

 とにかくウェンズデーはドラマ史上、最も過激なヒロインだ。誰かを殺そうとして失敗したことを“恥ね”と語ったり、“SNSは承認のための空虚な手段”と言い放つなど、言いたい放題・やりたい放題。でもだからこそ、時代の代弁者になりうる名キャラだ。

 本作はスリリングな展開と同時に、ウェンズデーの成長を描く青春物語でもある。ウェンズデーは高校の寮で、日本のお笑いトリオ、ぱーてぃーちゃんのメンバーでもおかしくない、チャラい級友イーニッド(エマ・マイヤーズ)とルームメイト同士になる。2人の部屋が美しい。部屋の半分、イーニッド側はカラフルだがウェンズデー側はモノトーン。ウェンズデーとイーニッドの性格の違いを表現しつつ、絶妙なバランスを通じ、そんな2人だって意気投合するかもしれないという希望を感じさせる。

Netflixシリーズ「ウェンズデー」独占配信中

 バートン作品とあってキャストも豪華で、ウェンズデーの母モーティシア役を映画『シカゴ』でアカデミー賞の助演女優賞に輝くキャサリン・ゼタ=ジョーンズ、さらに実写映画版『アダムス・ファミリー』2作でウェンズデー役を演じたクリスティーナ・リッチが大人の女優に成長して教師役で出演。そしてバートン組の常連である映画音楽の名手、ダニー・エルフマンが参加しているのも映画好きをそそる。

Netflixシリーズ「ウェンズデー」独占配信中

 ここまでの紹介を読んで、“ウェンズデーが過激かつネガティブ志向なのはちょっと”と思った読者もいるだろう。しかし筆者が冒頭でふれた通り、ウェンズデーという型破りなヒロインは空前絶後の共感を誘っている。

 全米ではウェンズデーのダンスを真似するのがTikTokで流行し、黒いファッション&ヘアスタイルというウェンズデーのコスプレをする少女が続出。昨秋20歳になりつつ15歳のウェンズデー役をクールに演じたオルテガは、たちまちスターへの階段を駆け上りだしたが、実はサッカー選手になるのが夢。そんな意外性までどれもが最先端と感じさせる。

 アダムス一家が米国でマイノリティー(少数民族)なのかもしれないのも要注目点だ。

予告編

今回ご紹介した作品

ウェンズデー

Netflixにて独占配信中

情報は2023年2月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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