池田敏さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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1899

2023/03/20配信

裏『タイタニック』!? ドイツ発パニックサスペンス

Netflixシリーズ『1899』独占配信中

 2023年2月、映画『タイタニック:ジェームズ・キャメロン25周年3Dリマスター』が公開されて大ヒットを記録している。オリジナル版は1997年発表で、厳密には26年前の映画だが、むしろ26年前の映画なのにと熱狂に驚かされる。その初日、筆者は別の映画を見るためにシネコンに行ったが、上映開始の直前、入口前で行列を目撃。恐らくはすでにTVで見たが、大画面+3Dで感動を新たにしたいと願った、若い観客が多そうだった。

 一方で昨年は、タイタニック沈没事故の13年前、1899年に展開するドイツ産のNetflixオリジナルドラマが世界的に好評を博した。それが今回ご紹介する『1899』だ。

 1815年から1932年にかけてヨーロッパから北米・南米に移住した人は、6500万人もいたという。そんな中、1500~1600人が命を落としたとされるタイタニック号の悲劇が生まれたが、このドラマは1899年、後にタイタニック号も旅立つ、英国のサウサンプトン港から大型客船ケルベロス号が出港して幕を開ける。大西洋の上でケルベロス号は、4カ月前に消息不明になった別の客船、プロメテウス号からのSOSを受信し、生存者を救おうとその海域に向かう。なおギリシャ神話の世界で、ケルベロスは冥界の番人である犬の怪物であり、プロメテウスは人類を進化させると共に、人類に不幸をもたらした。不穏だ。

 このドラマが秀逸なのは、プロメテウス号の船内でさまざまな面々が群像劇をおりなすこと。映画『タイタニック』で青年ジャック(レオナルド・ディカプリオ)は三等船室、令嬢ローズ(ケイト・ウィンスレット)は一等船室の客で、2人が愛し合う仲になったからこそ劇的な効果があったが、この『1899』の登場人物たちにも格差が存在する。そしてエイク船長(ドラマ『DARK ダーク』のアンドレーアス・ピーチュマン)のようにプロメテウス号を救うべきだと考える者もいれば、早く目的地に着きたいので人命救助に反対する者もいる。後者に関して格差は関係ない。人間のエゴはどうしようもなく強い。

Netflixシリーズ『1899』独占配信中

 そんなこんなでエイク船長らは洋上を漂うプロメテウス号を見つけて乗り込むが、数千人はいたはずの船に人影は無い。しかし生存者はいた。たった1人の少年だけ……。

 米国の『LOST』『ウォーキング・デッド』などと共通し、鮮烈な導入部(要はツカミ)で見る者の心をぐっとつかむ、パニックサスペンスとして申し分のない滑り出し。そこから各話、想像できないほどショッキングな見せ場が1つか2つは必ずあるので、思わず次のエピソードが見たくなるという中毒性はとても高い。筆者は勝手に“ヤバい裏『タイタニック』”と呼んでいる。とはいえシーズン1のみのリミテッドシリーズであり、全8話できちんとオチ(一番どうかしているのはここだが)を迎えるし、休日などの一日で完走するのはそうむずかしくはない。

 少しだけネタバレすると、実は本作はファンタジーだ。後半に向かうほど「そんなバカな」という展開が増えるが、見る者を裏切り続ける創意工夫の連発に感心させられる。

Netflixシリーズ『1899』独占配信中© Rasmus Voss

  さて2023年3月、映画界を代表するビッグイベント、第95回アカデミー賞の授賞式が開かれたが、そこではドイツのNetflixオリジナル映画『西部戦線異状なし』が『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』に次ぐ第2位の計4部門で受賞して注目された。先がけて発表された第76回英国アカデミー賞・映画の部では、14ノミネーションも7部門受賞も今年最多の数字。かつて日本にドイツのドラマはあまり上陸しなかったが、近年ではNetflix方面を中心に人気作が急増中。ドイツの映像業界のポテンシャルを確かめる上でも見逃せないのがこの『1899』だ。

予告編

今回ご紹介した作品

1899

Netflixにて独占配信中

情報は2023年3月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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