池田敏さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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THE LAST OF US

2023/04/27配信

ついに生まれた“ポスト『ウォーキング・デッド』”本命!

©2023 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.

 ここ10年位で日本における欧米ドラマ人気を最も後押ししたのはホラードラマ『ウォーキング・デッド』ではないか(ベストドラマだったかどうかはあくまで別の話)。某バラエティ番組で“ゾンビ芸人”の回が放送されたのは2016年秋。出演した芸人たちも自分たちにツッコミを入れていたが、事実上、“『ウォーキング・デッド』芸人”の回だった。同時に、“ゾンビがありなら海外ドラマは何でもあり”と印象づけた功績は大きい。

 そして“ポスト『ウォーキング・デッド』”の座に最も近いのが今回ご紹介する『THE LAST OF US』。全米で放送したのはプレミアムペイチャンネルのHBO。かつて『セックス・アンド・ザ・シティ』が、近年では『ゲーム・オブ・スローンズ』(とその前日譚『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』←これも遠くないうちにご紹介したい)が大ヒット。

 そんなHBOが満を持してぶち込んできた、期待通りかそれ以上かというサバイバルアクションドラマが『THE LAST OF US』。ちなみにPlayStation®3向けの同名ゲーム向けの同名ゲームという原作があるが、筆者はプレイしたことがない。それでも原作ゲームのファンを裏切らないクオリティーだと聞いている。“原作ファンを裏切らない”。SNSでファンの声が世界に届きやすくなった現在、これは人気コンテンツに欠かせない、マストのパワーワードだ。

 物語はこう。2003年、人間の脳に感染する謎の寄生菌が広まり、感染者は他人を襲い続けて激増する。平凡な建築業者だったジョエル(ドラマ『マンダリアン』でタイトルロールを演じるペドロ・パスカル)が娘を失ってから20年後の2023年、米東海岸のボストン。軍が厳しく管理する“隔離地域”で暮らすジョエルは、権力に抵抗するグループ“ファイアフライ”から奇妙な仕事を引き受ける。それは“隔離地域”の外に出て、少女エリー(パスカルも出演していた『ゲーム・オブ・スローンズ』でリアナ役を演じたベラ・ラムジー)を“ファイアフライ”に引き渡すというもの。ほどなくしてジョエルは、エリーが寄生菌に感染しても発症しない、“人類の希望”というべき存在だと気づき……。

©2023 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.

 率直に言おう。ウイルスが引き起こすパンデミック(人類はいまも現在進行形で体験している)も、“人類の希望”もファンタジーの題材としては少々ありきたりだ。しかしこの『THE LAST OF US』は、各話が1時間前後ながらどれも見応えたっぷりな映画のようで、連続ドラマ性を重視した『ウォーキング・デッド』とひと味もふた味も異なる、独特の味わいを生んでいる。

 すでにSNS上に大反響を呼んでいるのは第3話「長い間」。ジョエルとエリーにひととき安息の場所を与える男性2人組を描くが、20年間、ジョエルたちと別の場所で何が起きていたかを描き、ドラマ全体の世界観を押し広げた。

©2023 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.

 第95回アカデミー賞で作品賞など今年最多の7部門を受賞した映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』に対し、“マルチバース(並行世界)”という概念が分かりにくいという声がある。単純に、いま自分が生きている時間、どこか別の場所に、自分に近い境遇の人がいて“共感”できるとしたら、それは“希望”ではないか。生存本能が強いジョエルが、失った自身の娘にエリーを重ね合わせていく姿は、“分断”が問題になった現在だからこそ、見る者に響く。

 もちろん、ゾンビもグロいホラーも苦手な人はいるだろう。特に人間とキノコをミックスさせたような感染者たち(!)はマジにキモいと、55歳のおっさんである筆者も思う。だがそれらに驚かされつつも、本作は世界の最先端を走る逸品だと痛感せざるをえない。

予告編

今回ご紹介した作品

THE LAST OF US

U-NEXTにて見放題で独占配信中

情報は2023年4月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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