地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
FUBAR
2023/08/08配信
“シュワちゃん”が“シン・シュワ”として覚醒!?
Netflixシリーズ「FUBAR」独占配信中
世界的スター、アーノルド・シュワルツェネッガーの名前を聞いたことがない人は、きっと少ないだろう。日本での愛称“シュワちゃん”も。1980年代、主演映画が立て続けに大ヒットして人気を獲得。日清食品「カップヌードル」のCMでも日本人に親しまれた。
俳優になる前、まず母国オーストリアで名ボディビルダーとして注目され、米国に渡ってスターとして成功し、2003~11年には米国カリフォルニア州の知事を務めたという、情報量が多過ぎるスーパーセレブ。その突出ぶりは、てらさわホークさんによる名著『シュワルツェネッガー主義』でも語られている。
とはいえカリフォルニア州知事を辞めた後、映画界に復帰したが、かつての人気者もやや苦戦。2022年には75歳になったし元州知事だしで、いつしか“シュワちゃん”ではなく“シュワさん”っぽくなっていた気がする。
そんな“シュワちゃん”(以下、シュワと省略)が帰ってきた、というのがこのNetflixオリジナルドラマ『FUBAR』。6月に56歳になった筆者はシュワの映画を楽しんできた世代のど真ん中だが、『FUBAR』はシュワの過去を振り返るセルフパロディの宝庫であると同時に、“シン・シュワ”誕生を思わせる斬新な趣向も満載。少々戸惑いつつも楽しんだ。
Netflixシリーズ「FUBAR」独占配信中
ベテランCIA工作員ルーク(シュワ)は、一線での功績を認められて引退できる立場になるが、自分と同じくCIAで働くようになった娘エマ(『トップガン マーヴェリック』でナターシャ役を演じたモニカ・バルバロ)ら仲間たちと共に世界各地へ飛び、大物武器商人ボロ(ガブリエル・ルナ)の陰謀を阻止するミッションへ。まずは引退を決意したのにスパイ稼業へと復帰するルークが、演じるシュワ自身と重なっていて楽しい。
Netflixシリーズ「FUBAR」独占配信中
一方でシュワは、一説によれば“(演じた数々の役が)合計で最もたくさんの人数を殺した”という、型破りな記録(?)を持つ。出世作『ターミネーター』からして、なかなかくたばらない殺人ロボットの役だった。しかし、ベタなコメディ『ツインズ』では背が低いダニー・デヴィートとまったく似ていない双子兄弟を演じ、『ターミネーター2』では前作と正反対に、ある母子を守るロボットの役を演じ、暴れん坊のイメージを払拭することに成功。このあたりのバランス感、後に政治家に転身したのも納得できる塩梅だ。
だからこそ映画界復帰後、苦労したのだろう。ボディビルダー出身である元州知事という、シュワ自身の強烈なプロフィールに匹敵する役どころなんて無いに決まっている。
州知事の任期を満了してから12年、ようやく出会ったのが『FUBAR』。自身の人生や俳優歴が重なる主人公役をリラックスして演じ、“シン・シュワ”として覚醒した。
Netflixシリーズ「FUBAR」独占配信中
より具体的には、シュワが演じる主人公ルークはスパイである点、『トゥルーライズ』で演じたハリーと重なるが、斬新な面も。シュワは単独行動に向いたヒーロー像を得意としたが、『FUBAR』では娘エマらCIAの若い面々とチームワークに挑み、物語にはホームドラマ的要素も多い(なので筆者は当初戸惑った)。ルークは元妻と離婚したが、シュワも35年連れ添った元妻マリア(ジョン・F・ケネディ大統領の姪!)と離婚。そして世代が異なるエマと対立するが、2人はよく似ていて微笑ましい。Netflixは配信を開始した月の翌月、すぐにシーズン2への継続を決定。
そういう訳でシュワ復活を歓迎……したいが、2023年8月上旬の時点で、日本語吹替版がまだ作られていないのが惜しい。定番声優の玄田哲章が演じるシュワの声を、聴いてみたいファンは日本全国少なくないはず。今からでも遅くない。吹替版で再見したい。
今回ご紹介した作品
FUBAR
Netflixにて独占配信中
情報は2023年8月時点のものです。