池田敏さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル

2023/08/28配信

超高級リゾートでセレブたちが展開する人間模様!

© 2023 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.

 米国で放送&配信される番組には“リミテッド・シリーズ”と呼ばれるタイプがある。全回合わせて計150分以上が条件。ドラマについては映画と連続ドラマの中間のような、以前は“ミニシリーズ”と呼ばれた作品のことだが、むしろ通常の番組よりスケールが大きいことが多く、“ミニ”という形容には、筆者も違和感があった。そして“アンソロジー”と呼ばれるフォーマットもある。元々各話が異なる登場人物・舞台の番組を指すが(日本の『世にも奇妙な物語』もそう)、近年の米国ではシーズン毎に登場人物・舞台が異なる作品も“アンソロジー”と呼ぶようになった。

 2022年に“TV界のアカデミー賞”、エミー賞でリミテッド/アンソロジー作品賞を制したのがこの『ホワイト・ロータス~』。シーズン1は風光明媚なハワイのホテルに集まった、多彩な登場人物が繰り広げるトラブルを、時にブラックユーモア満載、時にセクシー&スリリングに描いて目が離せなくなる。

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 基本的に“温故知新”という作風だ。1932年の名作映画『グランド・ホテル』になぞらえ、主人公を特に決めず、ある舞台に集まった人々の群像を描く手法を“グランド・ホテル形式”と呼ぶが、本作はそのオーソドックスな手法を踏襲しつつ、世代間の分断、ダイバーシティ(多様性)、LGBTQ+など、最先端の題材をふんだんに盛り込み、なるほどこれが世界一エッジーなドラマかと痛感。

 とはいえ、お知らせしておくと本作は大人向けドラマで、子どもといっしょに見ることはお勧めできない。同時に、地上波TVで放送できない程度に“ちょうどいい位に過激”。TVドラマの常識に挑んでいる。

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 シーズン1の舞台はマウイ島にあるリゾートホテル“ホワイト・ロータス”。ある空港で遺体が航空機に載せられるという、不穏な場面で幕を開ける。1週間前から、ホテルには、超リッチな面々が休暇を過ごそうと集まっていた。リゾート地とあってはめを外す者もいれば、その高いテンションについていけない面々もいて……。秀逸なのは、コメディ、サスペンス、ヒューマンドラマなど複数のジャンルを往来したこと。特にコメディとサスペンスは正反対であるがゆえ、互いに上手く組み合わさった時の破壊力は大きい。

 前出のエミー賞など、高い評価を受けたシーズン1を受けて作られたシーズン2 (下写真)は、イタリアのシシリー島を新たな舞台に。そこにある別の“ホワイト・ロータス”で起きる狂騒を描く。シシリー島がルーツの祖父(映画『アマデウス』でアカデミー賞の主演男優賞に輝いたF・マーリー・エイブラハム)とその息子・孫息子、子どもがいる夫婦と子どもがいないその友人夫妻など多種多様で、展開はさらに先読みが困難に。同時に映画『ハングオーバー!』シリーズのようなノリも。

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 ロケ地がぜいたくで、美しい風景も見ものだ。シーズン1で“ホワイト・ロータス”になったのは“フォー・シーズンズ・リゾート・マウイ・アット・ワイレア”で、シーズン2は同じくフォー・シーズンズ系の“サン・ドメニコ・パレス・ホテル”(ちなみに筆者調べでは一泊ウン十万円!)。全米放送したのは筆者のこの連載でも度々取り上げてきたHBO局。殺人などの違法行為やシモネタを満載したドラマなのにフォー・シーズンズがロケをOKしたのは、大人向けドラマの秀作を連発してきたHBOのドラマだからか。

 シーズン1は全6話でシーズン2は全7話。半日で海外旅行気分をたっぷりと味わえるという点でも、コロナ禍の時代にマッチ。製作が決まったシーズン3はタイにあるフォー・シーズンズでロケを予定。しばらく目が離せない、刺激たっぷりなエンタメドラマだ。

予告編

今回ご紹介した作品

ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル

U-NEXTにて見放題で独占配信中

情報は2023年8月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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