池田敏さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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サンクチュアリ -聖域

2023/09/19配信

“相撲”を武器に、世界に挑んだ日本のドラマ。とにかく面白い!

Netflixシリーズ「サンクチュアリ -聖域-」独占配信中

 この“週刊テレビドラマ”で海外ドラマ評論家の筆者が日本の作品を書くのは初。Netflixオリジナルの日本のドラマ『サンクチュアリ -聖域-』がとにかく面白かったから。

 題材は“相撲”。世界が相手のNetflixらしく、あえて“和”に着目。まず“相撲”がモチーフの作品は意外と少ない。学生相撲を題材にした映画『シコふんじゃった。』のほか、NHK連続テレビ小説『ひらり』、ちばてつや作『のたり松太郎』、一丸作『おかみさん 新米内儀相撲部屋奮闘記』などのコミックもあったが、相撲は日本の国技のひとつなのに、あまり題材になっていない印象。

 考えられる理由はいくつかある。まず現実の相撲部屋は恐らく、最も過酷なプロスポーツの現場だ。本作の第1話の冒頭、主人公の新米力士・清(一ノ瀬ワタル)は何度も稽古場の壁に体を叩きつけられる。後日、そんな稽古場を取材に来た女性記者・飛鳥(忽那汐里)は清を救おうと手を差し伸べるが、逆にある力士から、そういう風習があるとはいえ“女は土俵に入るな”と叱られてしまう。“しごき”“いじめ”の恒常化と共に、相撲界(角界)、さらには日本中に、封建的な“男尊女卑”が根付いていることを示唆する。

Netflixシリーズ「サンクチュアリ -聖域-」独占配信中

 さらには、そんな角界の中の“政治”。ある有力相撲部屋は、主人公の清が所属する小さな相撲部屋の親方・猿将(ピエール瀧)に圧力をかけまくる。ちなみに本作、実在する相撲関連団体はどれも協力していない。

 とはいえ本作は基本的に、両親の関係が壊れて不良になった清が、相撲と出会って生きがいを見つける、王道の青春スポーツドラマで、まずはそこが見る者の心を動かす。相撲の場面などコミック的な描写も多いが、根底にある世界観がリアルだから迫力を増す。

 主演の一ノ瀬が圧倒的。1年もかけて力士の役作りをし、その間、Netflixが借りたマンションで暮らした時期も。ここまで俳優の役作りに注力する日本の作品は無かった。

Netflixシリーズ「サンクチュアリ -聖域-」独占配信中

 さて筆者はSNSで“もっと盛り上がると思った”という感想を見かけたが、物語の展開だけを追うと確かにそうかもしれない。しかしこのシーズン1は、作られることを大いに期待したいシーズン2・3に向けた、いわば“ホップ・ステップ・ジャンプ”の“ホップ”。筆者は、もしもシーズン2が作られたら海外ドラマのようで最高だと心が騒いだほどだ。近年の日本のドラマの多くは最初のシーズンしか想定せずに作られていないか。

 Netflixは賛否両論を呼んだ『全裸監督』の頃から“できればシーズン2以降につなげる”という思想だし、それはNetflixが日本以外、世界中で手掛けているドラマもそう。いや、日本の『相棒』『科捜研の女』『孤独のグルメ』などのヒット作にもそうした思想を感じる。ファンに次のシーズンを期待させる、それこそがドラマという表現の最先端の世界基準だ。豪華俳優陣で注目を集めるドラマが日本で話題になる度に、それがシーズン2以降の成立を困難にしているという矛盾を感じる度、筆者は悲しくなる。

Netflixシリーズ「サンクチュアリ -聖域-」独占配信中

 本作の出演陣だが、大熱演の一ノ瀬以外も見せ場は多い。カムバックを歓迎したい瀧、すでにハリウッドでも活躍中の忽那のみならず、一ノ瀬の親友役の染谷将太、忽那の上司役・田口トモロヲ、一ノ瀬の母親役の余貴美子(一番どうかしている激演)、一ノ瀬に言い寄るホステス役の寺本莉緒、澤田賢澄ら力士役の面々、いずれもこの作品があって輝いた。そんな俳優陣や、映画『ザ・ファブル』の江口カン監督(福岡で作った『めんたいぴりり』の第一部も秀作だ)にも、放送作家から脚本家に転じた金沢知樹にも、人生の土俵際からの再起を目指す主人公・清に通じる気迫を感じる。

今回ご紹介した作品

サンクチュアリ -聖域-

Netflixにて独占配信中

情報は2023年9月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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