地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
ハイジャック
2023/10/03配信
濃密に展開するスカイパニックドラマ
画像提供 Apple TV+
飛行機の乗っ取り=“ハイジャック”という題材は、世界中の人々が航空機で各国を行き来するようになった1970年代以降、娯楽映画で人気の題材となっている。特にVFXが進化し、大空の非常事態をリアルに描けるようになった1990年代、一時的にブームとなったほど。『エグゼクティブ・デシジョン』『エアフォース・ワン』『コン・エアー』、VFX少なめだが傑作の『パッセンジャー57』など、多数のハイジャック映画が生まれた。
だが歴史に残る悲劇が起きる。2001年9月11日に起きた全米同時多発テロ事件だ。
以後、ハイジャックものはしばらく作られなくなったが少しずつ復活し、本作もそんな中でも生まれた1本。久しぶりに海外旅行へ行こうと思っている人たちにはショックが大きそうな点、タイムリーなのも面白い。
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主演は英国出身のアフリカ系男優であり、同国のドラマ『刑事ジョン・ルーサー』(別邦題『刑事ルーサー』)で注目され、『パシフィック・リム』、“マーベル・シネマティック・ユニバース”でのヘイムダル役、『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』など、ハリウッド大作でも活躍しているイドリス・エルバ。彼が英国に戻って快演を見せた。
中東のドバイを飛び立った英国ロンドン行きの航空機が、犯罪者6人組にハイジャックされる。しかし機内には一味が予想しなかったような強敵(?)がいた。それはサム・ネルソン(エルバ)。なんと企業同士の交渉に腕を振るう、凄腕の“ネゴシエイター”だ。
とはいえ、ビジネスでは敏腕な“ネゴシエイター”が犯罪者グループを相手にどこまで立ち向かえるのか。機内でひと騒動が起きた際、グループのひとりは拳銃を落とすが、それを拾ったサムは一味に拳銃を引き渡す。なぜ? サムは敵なのか、味方なのか。
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こうした大きな犯罪を取り上げる作品は、“当局(犯罪捜査機関)”VS“犯罪者グループ”の対立を軸にすることが多い。後述もするが、たとえば大ヒットした『24 -TWENTY FOUR-』は、対テロ専門家のジャック・バウアー(キーファー・サザーランド)とテロ一味という、プロ同士の対立を描いた。しかしサムはアマチュアに過ぎない。大丈夫か。
本作が出色なのは、犯罪者6人組の目的をなかなか明かさない点。ハイジャック映画は大抵、犯人の目的を先に明かし、“当局”が逆境をはねのけながらそれをどう阻止するかを見ものにする。少しネタバレしてしまうと本作は第5話でやっとそれを明かすが、同時に犯人6人がなぜ手を組むことになったかという疑問を生む。その手つきは絶妙だ。機内に加え、地上でも事件が次々と発生。最後まで目が離せなくなるのでイッキ見推奨!
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さらに本作がユニークなのは、主人公サムもそうだが、“正義は悪に勝つ”という米国で好まれそうな価値観ではなく、どうしたら事態を突破できるかに集中した登場人物が多いこと。ある場面、“英国人は感情を見せない”と語られるが、英国の作り手たちによる自虐的ユーモアなのか。単なる理想主義に終わらない、リアリズムに説得力がある。
それにしても、以前からセクシーと呼ばれてきたエルバの魅力が、本作でもフルに発揮されている。最近『インディ・ジョーンズ』シリーズが再評価されているハリソン・フォードは“困った表情”が得意だが、エルバもまた“困った表情”に共感を誘われる。
ドバイからロンドンまでのフライトは約7時間。本作は全7話だけとはいえ、より濃密にした『24 -TWENTY FOUR-』のよう。以前もご紹介した秀作『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』(星野源さんも大ファン)もあるしで、AppleTV+は引き続いて要注目だ。
今回ご紹介した作品
ハイジャック
AppleTV+で全7話配信中
情報は2023年9月時点のものです。