地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
ザ・コンチネンタル:ジョン・ウィックの世界から
2023/12/5配信
『ジョン・ウィック』シリーズのスピンオフ
© Amazon Studios
今年、第4作『~コンセクエンス』が公開された、大ヒット映画『ジョン・ウィック』シリーズ。第1作で元殺し屋ジョン(キアヌ・リーブス)は亡き妻が遺した愛犬をロシアン・マフィアに殺され、復讐に立ち上がった。極めてシンプルなストーリーだが、ジョンが向かったニューヨークの“コンチネンタル・ホテル”に胸がざわざわした。殺し屋専用ホテルって何? しかもそこには破ってはいけない掟がある? ネタバレすると、殺伐とした世界観ながら、ジョンが次の愛犬を見つけるラストは微笑ましく、アクション映画として傑作だった。するとシリーズ化されるのは当然だが、第2作『~チャプター2』は物語の軸が“コンチネンタル・ホテル”を中心とする殺し屋ワールド(?)に移り、筆者は少々戸惑ったというのが正直なところ。しかし、それを受けてきちんと発展させた第3作『~パラベラム』、第4作『~コンセクエンス』は、なるほどそう来たかと新たな愉しみを覚えた。ニューヨークなど実在する世界各地を舞台とした『ジョン・ウィック』シリーズだが、実は斬新な“クライム・ファンタジー”なのだと大いに納得がいった。
© 2022 Starz Entertainment, LLC
そして生まれたスピンオフが、この『ザ・コンチネンタル:ジョン・ウィックの世界から』。各話90分前後で全3話というフォーマットはドラマと呼ぶより、いきなり3部作の映画にしたかのよう。『ジョン・ウィック』シリーズの成功があっての攻めの姿勢だ。 『ジョン・ウィック』シリーズで謎めいた存在感を醸した、“コンチネンタル・ホテル”のオーナー、ウィンストン(イアン・マクシェーン)とコンシェルジュのシャロン(惜しくも2023年3月17日に60歳で亡くなったランス・レディック)。本作は1950~70年代にさかのぼって、当時の“コンチネンタル・ホテル”で起きる抗争を描く。キャストは変わったが、当時の同ホテルのオーナー・コーマック役を『マッド・マックス』『リーサル・ウェポン』などの映画で知られる、俳優兼監督のメル・ギブソンが演じるのも大きな話題だ。
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1970年代、ニューヨーク。“コンチネンタル・ホテル”はオーナーのコーマックに経営されているが、殺し屋社会の頂点“主席連合”にとって重要な“コインプレス”が盗まれて、殺し屋たちは緊迫した状況に……。
『ジョン・ウィック』シリーズ名物の豪快なアクションは、やや鳴りをひそめているとはいえ、銃撃戦など、やる時はかなりやる(刺激が苦手な人は要注意)。そして1970年代の荒廃したニューヨークの風景も魅力がたっぷり(やや誇張されているが)。当時の米国映画好きもしびれるはずだ。さらに登場人物はいずれも個性的で、男性メインの世界だが女性陣も奮闘する(ある場面では壁に1970年代の女性ブラックスプロイテーション映画『コフィー』のポスターが貼られている)。好選曲の音楽がふんだんで、スタイリッシュな映像との相乗効果は抜群。これも好きな人にはたまらないだろう。
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映画シリーズ第1作『ジョン・ウィック』は楽しんだが以後はちょっと……という人にとって恐らく本作は、登場人物は増えるやら1950年代の回想シーンは多いやらで、新たな世界観にたどり着くまでのハードルがさらに高いかもしれない。しかし今年56歳のおっさんになった筆者は、恐らく自分と同世代や少し若い世代のスタッフがこの『ザ・コンチネンタル~』というプロジェクトに集まったことを素直に喜びたい。監督は『フロム・ヘル』などの映画で知られるヒューズ兄弟の兄アルバートなど。恐らく作り手たちは“クライム・ファンタジー”の世界で真剣に遊んでいる。いわば“バイオレンスの遊園地”、『ジョン・ウィック』シリーズの進化形だ。
今回ご紹介した作品
ザ・コンチネンタル:ジョン・ウィックの世界から
Prime Videoで独占配信中
情報は2023年12月時点のものです。