池田敏さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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ウォーキング・デッド:ダリル・ディクソン

2023/12/21配信

『ウォーキング・デッド』の人気者が主人公に!

©2023 Stalwart Productions LLC.

※以下、『ウォーキング・デッド』最終回のネタバレを含みます。

 本連載で以前もふれたが、米国の『ウォーキング・デッド(TWD)』は画期的な大ヒットドラマだった。TV番組なのに本格ゾンビ・ホラーという過激さは、日本における海外ドラマ全体の人気まで底上げしたはず。

 2021~22年に全米放送されたシーズン11をもって番組は終了したが、以前から数本のスピンオフが始動し(後述)、2023年からは、いわば“タイトルを変えた続編”まで生まれている。その1本がこの『ウォーキング・デッド:ダリル・ディクソン』である。

『TWD』で一番人気の名キャラ、ダリル(ノーマン・リーダス)。血の気が多いタフガイで周囲と距離を置きがちだが、彼は内心、孤独に悩む。その二面性は連続ドラマの登場人物としてサイコーだ。筆者は来日した俳優リーダスにインタビューしたが、自分に用意された高級そうな椅子を女性の通訳さんに譲り、自身は通訳さん用の普通のイスに着席。何これ、カッコよすぎると大コーフンした!

©2023 Stalwart Productions LLC.

 そして『TWD』の最終話、ダリルは消えた仲間たち、リックやミショーンを捜そうと共同体のコモンウェルスから去った。本作はダリルの意外なその後を描くが、第1話の冒頭から度肝を抜かれる。海を漂流する小さなボートでダリルが目を覚ますのは、なんとフランス。米国からとても遠い。なぜダリルはフランスに来たのか。いきなり大きな謎を見る者にぶつけつつ、ダリルは米国に帰りたいとかぶせる。かなりハイレベルなツカミ。

 やがてダリルはフランス全土もまたゾンビ(『TWD』での“ウォーカー”と異なり“飢えし者”と呼ばれる)によって壊滅状態にあると知るが、ある修道院で再出発。強大な勢力“生者の力”に“希望連合”が抵抗する中、ダリルは修道女イザベル(クレマンス・ポエジー)や謎めいた少年ローラン(ルイ・ピュエシュ・シグリウッツ)と旅に出る。

©2023 Stalwart Productions LLC.

『TWD』からはすでに『フィアー・ザ・ウォーキング・デッド(FTWD)』など3本のスピンオフが生まれ(1本は日本未公開)、日本での配信開始が本作の後となった第4弾『~デッド・シティ』に続いた本作は、『TWD』の第5のスピンオフだ。これまでの『TWD』のスピンオフは、『FTWD』以外の2本は短命に終わった。理由は明確だ。本家『TWD』がまだ続いていたから。コンセプトや登場人物の顔ぶれなど『TWD』との差別化を狙ったが、大ヒットした本家と比較されるリスクに耐えられなかった。しかし『TWD』が終了し、呪縛は解け始めた。そして“タイトルを変えた続編”である『~デッド・シティ』は本家のファンを取り込み、さらに本作も名キャラのダリルをよりクローズアップして、大いに気勢を上げている。

『TWD』のファンはご存知の通り、粗暴な兄への愛憎が入り混じった感情など、繊細さがダリルの最大の魅力。彼はこの“続編”でローランの父親代わりを務めることで、人間としてもヒーローとしても成長していく。

©2023 Stalwart Productions LLC.

 ヒット作『TWD』のスピンオフとあって製作費もふんだん。パリなどフランス現地で本格ロケを敢行。『TWD』とは異なる欧州ならではの風景の数々で、作品の世界観をリフレッシュ。特に欧州各地の“城”の文化は米国と大いに異なるもので、ゾンビから人間を守る防壁として機能しているのは斬新だ。

 さて『TWD』の各シリーズは、本作も『~デッド・シティ』もシーズン2の製作が決定。そして初期『TWD』の中心人物リック(アンドリュー・リンカーン)を主人公にした“タイトルを変えた続編”の本命『ウォーキング・デッド:ザ・ワンズ・フー・リヴ(原題)』が2024年に全米放送予定。『TWD』自体がゾンビのよう、は言い過ぎか!?

今回ご紹介した作品

ウォーキング・デッド:ダリル・ディクソン

U-NEXTにて独占配信中

情報は2023年12月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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