地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
ファーゴ(シーズン5)
2024/3/12配信
オフビートな風味のローカル犯罪サスペンス
各話の冒頭、「これは実話」「但し人名は変えてある」などの前口上を掲げるが、実は完全にフィクション! なんとも人を食った犯罪サスペンスドラマが『ファーゴ』だ。
成功すると何年も続く米国ドラマ、というイメージをお持ちの人は多いだろうが、近年は多様化し、最初の1シーズンで映画1本のように完結する“リミテッドシリーズ”や、コンセプトや一部の出演者・スタッフは共通するが、各シーズンが“リミテッドシリーズ”のように独立した“アンソロジー”という形式のドラマが増えた。ちなみに、各話で物語が異なる短編集、日本の『世にも奇妙な物語』のようなドラマも“アンソロジー”と呼ぶ。
この『ファーゴ』は前者の“アンソロジー”だが、原作となった映画がある。映画界の鬼才コーエン兄弟が1996年に放った『ファーゴ』だ。原作と共通するのは米国の地方、中でもファーゴという町が実在するノースダコタ州とそこに隣接するミネソタ州を舞台にした犯罪サスペンスという位で、各シーズン、異なる時代の異なる事件を取り上げる。
コーエン兄弟が製作総指揮に名を連ねる本作だが、彼らは原作映画を生んだだけ。ヒットドラマ『BONES 骨は語る』などに参加していたノア・ホーリーが、クリエイターやメインの脚本家・監督などを担当。彼は恐らくコーエン兄弟を信奉して研究もしており、映画版と同様、中西部の美しくも荒涼とした風景の中、ブラックユーモアとバイオレンスをまぶし、これぞドラマ版『ファーゴ』という本作をシーズン5まで続けることに成功中。
シーズン5は2019年のミネソタ州が舞台。主婦ドロシー(『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』のジュノー・テンプル)は温厚な夫ウェイン(デイヴィッド・リズダール)や幼い娘と平和に暮らすが突然、犯罪者2人組に誘拐される。だがドロシーは破格の戦闘能力を発揮し、逃走に成功。実はドロシーは、ノースダコタ州の保安官で、2人組を雇ったロイ(ジョン・ハム)の妻ナディーンだったが、DV夫ロイのもとから去り、名前をドロシーに変えて人生を再出発させていた。
危険を承知でなぜか自宅に戻るドロシー、そして名士ロイと同じく粗暴な息子ゲイター(『ストレンジャー・シングス 未知の世界』のジョー・キーリー)、そして息子ウェインと異なり気が強い金融界の成功者ロレイン(ジェニファー・ジェイソン・リー)、またドロシーの誘拐に失敗した謎の男マンチ(サム・スプルウェル)も絡んで四つ巴の死闘が展開。マンチのイメージはコーエン兄弟の『ノーカントリー』(07年)でハビエル・バルデムが怪演した殺し屋シガーと似ていて、映画好きには楽しい。地方という舞台とDV夫に元妻が反撃する物語(女性陣が強いのは映画版以来続く伝統)の組合せも魅力的だ。
さて、米国で“アンソロジー”や“リミテッドシリーズ”が増えた理由だが、大作映画一本で半年~1年以上もスケジュールを拘束される映画界の大スターも、半年以内に収録できるドラマなら出演できるから。シーズン1はビリー・ボブ・ソーントン、シーズン2はキルスティン・ダンスト、シーズン3はユアン・マクレガーと、映画界の大物が出演。シーズン4は1950年が背景のギャングドラマに転じたが、『ファーゴ』らしくなく残念。しかしこのシーズン5はアクションも迫力満点のオフビートな犯罪劇という原点に戻り、シーズン1~3のファンも振り向かせる。
映画版もこれまでの4シーズンも未見の人が、いきなりこのシーズン5を見ても大いに楽しめる。見る人によってはハチャメチャに感じるだろうが、まずは「これは実話」という大ボラに身を委ね、全10話を満喫したい。
今回ご紹介した作品
ファーゴ(シーズン5)
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情報は2024年3月時点のものです。