池田敏さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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SHOGUN 将軍

2024/4/15配信

日本などが組んだ空前絶後の超大作戦国ドラマ!

(c) 2024 Disney and its related entities Courtesy of FX Networks

 米国の会社が、日本の真田広之を主演・プロデューサーに招いた超大作ドラマ。ジャンルはなんと戦国ドラマ! 正直いって海外を舞台にしたハリウッド作品は各国の文化などの描写に問題がありがちだが、この『SHOGUN 将軍』、ついに生まれた完成度の高い傑作だ。

 まず本作には原作がある。第二次世界大戦で日本軍の捕虜になったが、戦後は名作映画『大脱走』(1963年)などの脚本家や作家として活躍した、ジェームズ・クラヴェルによる世界的ベストセラー小説『将軍』。これは1980年、ドラマ化され(再編集した映画版も公開)、日本で本格ロケを敢行し、伝説の名優、三船敏郎ら日本人が多数出演した。そこで三船が演じた吉井虎永(徳川家康がモデル)の役に挑んだ、真田の情熱がまずはすごい。

(c) 2024 Disney and its related entities Courtesy of FX Networks

 1600年。戦乱の世を経て天下を統一した太閤は、有力な大名5人を“五大老”に据えるが、他の大名たちは関東の領主である虎永の失脚をもくろむ。ある時、虎永は伊豆の海に船で漂着した英国人航海士、ジョン・ブラックソーン(コズモ・ジャーヴィス)と出会うが、日本名・按針(あんじん)となったブラックソーンの運命は大きく動いていく。

 1980年版の『将軍』は、あくまで英国人・按針の視点から物語が描かれ、日本の文化・風習に彼が違和感を覚える描写を重視。元々、米国で放送されるドラマであり、米国の視聴者の好奇心をかきたてるためだったのだろうが、逆に日本人から見ると“?”という、不自然な描写も少なくなかった。もっとも当時の日本の作品も欧米文化の描写がいい加減なものが多く、今となってはお互い様か。

 しかし、伝説のドラマをそのままリメイクするのではなく、大ヒット作『ゲーム・オブ・スローンズ』に匹敵する、壮大なアクション・アドベンチャーを新たに志向し、当時の日本もリアルに描こうと挑んだのが『SHOGUN 将軍』だ。回を追ってぐんぐん面白くなる!

(c) 2024 Disney and its related entities Courtesy of FX Networks

 筆者はある日本の映画人に教えてもらったが、数年前、京都・太秦にある東映京都撮影所に本作のスタッフルーム(スタッフが集まる製作の拠点)があったという。日本の時代劇を支えてきた有名な撮影場所だが、主演に加えてプロデューサーも兼任することになった真田にとって少年時代から非常に関係が深い原点。最終的に本作の収録はカナダのバンクーバーやアイルランドで行なわれたが、東映京撮を中心とする時代劇のエキスパートたちが現地に渡った。またその裏では彼らを多数の通訳がサポートしたとか。時代劇に詳しくない筆者ですら、セット、衣装、メイクから当時の日本人の所作まで、日本の時代劇以上に戦国ドラマとして完璧に近いと感じた。

(c) 2024 Disney and its related entities Courtesy of FX Networks

 真田以外のキャストも、浅野忠信、西岡德馬、二階堂ふみら日本のスター陣に加え、ハリウッドで活躍する、ドラマ『モナーク: レガシー・オブ・モンスターズ』に出演していたアンナ・サワイや平岳大、映画『硫黄島からの手紙』の尾崎英二郎など、英語に堪能なキャストが集結。米国の作品ながら大勢いる日本人の役を、すべて日本人・日系人が演じたこと、これは一言でいうなら“奇跡”だ。

(c) 2024 Disney and its related entities Courtesy of FX Networks

 さて海外ドラマ好きの筆者が強調したいのは、米国のドラマ界で最も活躍してきた日本出身俳優が真田であること。『たそがれ清兵衛』(2002年)『ラスト サムライ』(2003年)を経て海外進出を本格化させた真田は『LOST』『リベンジ』『HELIX 黒い遺伝子』『エクスタント』『ザ・ラストシップ』に一時期レギュラー出演し、ハリウッドの大作映画にも多数出演。これらの蓄積があったから、これから時代劇の歴史を語る際には欠かせないだろう超大作『SHOGUN 将軍』の世界的成功がある。まさにこれは必見である。(文中敬称略)

予告編

今回ご紹介した作品

SHOGUN 将軍

配信
ディズニープラスの「スター」にて独占配信中

情報は2024年4月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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