地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
マスターズ・オブ・ザ・エアー
2024/5/20配信
スピルバーグら豪華布陣が参加した戦争ドラマ超大作!
画像提供:Apple TV+
スティーヴン・スピルバーグ監督と大物俳優のトム・ハンクスという、戦争映画の傑作『プライベート・ライアン』の名コンビ。2人は同じく第二次世界大戦を題材に、ドラマ『バンド・オブ・ブラザース』『ザ・パシフィック』でも組んだ。それぞれ米国の陸軍・海兵隊を題材にしたが、ついに“空軍(厳密にはまだ“陸軍航空軍”だった)”を取り上げたのがこの『マスターズ・オブ・ザ・エアー』だ。2007年に刊行された歴史家ドナルド・L・ミラーによる戦記を原作にしている。
第二次世界大戦中の1943年春。米陸軍航空軍のある部隊の若い兵士たちはナチス・ドイツを倒すべく英国の基地へ。意気揚々と繰り返しドイツを爆撃するが、ドイツ軍の優秀な高射砲群に苦戦を強いられてしまい……。
見せ場は最新の映像技術を駆使した、戦争映画に負けない迫力の空中戦シーンの数々。離陸した爆撃機の数々がドイツ軍に迎撃されて次々と散っていく様子はあまりに痛々しいが、『プライベート・ライアン』の冒頭の“ノルマンディー上陸作戦”を連想させる。
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大ヒット作の続編『トップガン マーヴェリック』が公開された直後にこういうドラマが配信されたのは恐らく大きな偶然だろうが、戦闘機vs.敵機のドッグファイトを痛快な見せ場にした『トップガン』2本と異なり、本作での爆撃機群はナチス・ドイツの圧倒的な迎撃力を前に劣勢を強いられ続ける。序盤でいきなり、ドイツ軍に機体の一部を破壊された爆撃機が墜落しそうになる場面がある。唐突だが筆者は学生時代、ハンググライダーというスカイスポーツを楽しんだが(フライヤーとしてはポンコツ中のポンコツというレベルだったが)、こんな風に翼を穴だらけにされることの恐怖感はハンパがない。人は亡くなる直前、まるで走馬灯を見るように人生を回想するというが、本作のパイロットたちはそんな走馬灯を何度見返したのだろう。
一方、こういう声もあるだろう。映画『オッペンハイマー』で描かれた通り、広島や長崎に原爆を落としたのも本来は平凡な市民だったパイロットたちだったと。それは恐らくその通りだ。本作のラストでは登場人物陣のその後が描かれる。中には、学校の先生になって教育に従事した者もいたりする。これは個人的意見だが、戦時下ではそれほどいやおうなく、他人の人生を破壊するのが当たり前になる、恐ろしい事態が実現してしまう。
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そんな戦慄のストーリーでありながら本作はハリウッド産エンターテインメントとしての矜持も意識しているかのよう。『エルヴィス』で歌手プレスリー役を熱演した後、『デューン 砂の惑星 PART2』で悪役を激演した注目株オースティン・バトラー、『ファンタスティック・ビースト』シリーズでテセウス役を演じたカラム・ターナー、『ダンケルク』『イニシェリン島の精霊』の個性派バリー・コーガンら未来のスター陣が魅力的。但しスピルバーグの息子ソーヤーも出演しているというが、筆者は映像上確認できず……。
また全9話のうち、第1~4話を映画『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』のキャリー・フクナガ(ルーツのひとつは日本)が監督し、この大作に弾みをつけたのもポイント。
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惜しい部分も無くはない。主要登場人物たる兵士たちが少々見分けがつかず、中には戦死する者も多いのでやや混乱してしまう。兵士たちの経歴・背景もほとんど描かれない。だが恐らくは、平凡な若者が戦禍に巻き込まれることの恐ろしさ・残忍さを際立たせるためではないか。何より主人公たち=連合国側が勝利すると分かっていてもこれほど楽しませてくれるのだから、その剛腕に感心するしかない。戦争ドラマの歴史に残る傑作だ。
今回ご紹介した作品
Apple TV+「マスターズ・オブ・ザ・エアー」
- 配信
- Apple TV+にて独占配信中
情報は2024年5月時点のものです。