池田敏さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー

2024/6/24公開

極夜の闇に隠された真実に挑む犯罪サスペンス

© 2024 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.

『トゥルー・ディテクティブ』(原題『TRUE DETECTIVE』)は、以前ご紹介したドラマ『ファーゴ』と同様、シーズン毎に異なるキャラの異なる物語を描く‟アンソロジー”形式のミステリーだが、いずれも‟ディテクティブ(刑事)”が主人公。とはいえ、後に映画『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』やドラマ『マスターズ・オブ・ザ・エアー』の第1~4話を手掛けるキャリー・フクナガが監督し、2人の演技派、マシュー・マコノヒーとウディ・ハレルソンが主演したシーズン1はあまりに完成度が高く、シーズン2・3がそのレベルに達しなかったのは残念だった。

 しかし5年ぶりに作られたこのシーズン4、『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』は、シーズン1に引けを取らない極上の犯罪サスペンスに仕上がった。ドラマは続きが気になって仕方がないなんて人は全6話、イッキ見させられる覚悟で臨もう。

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 どのシーズンもハリウッドスターが主演してきた本作だが、このシーズンはアカデミー賞の主演女優賞に2回輝いたジョディ・フォスターと、元プロボクサー(世界チャンピオンにもなった)のカーリー・レイスが主演。女性のW主演は番組史上初。さらに監督も女性であり、『ザ・マミー』(2017年)が好評だった、メキシコ出身のイッサ・ロペスだ。

『トゥルー・ディテクティブ』は舞台もシーズン毎に異なり、シーズン1は南部のルイジアナ、シーズン3は中部のオザーク高原で、それらのローカル感もポイント。そう考えると、大都会のロサンゼルスで展開したシーズン2が不発だったのも理解できてくる。

 このシーズンの舞台は米国の最北端、アラスカ州の小さな町エニス(架空の町)。クリスマスが近づき、‟極夜(白夜とは逆に太陽が沈んだ状態が続く)”の時季が訪れるが、ある研究所で8人の学者が一度に行方不明になり、研究所の床から切断された人間の舌が見つかる。地元警察の署長リズ・ダンヴァース(フォスター)が捜査に取り組んだ直後、8人は遺体になって見つかる。なんと遺体は、氷でひとかたまりになって凍っていた。

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 この異常な事件、過去にある先住民の女性が殺された事件との関係が疑われ、その時に捜査を担当したが州警察に左遷された、エヴァンジェリン・ナヴァロ(レイス)がダンヴァースと組む。かつてコンビだった2人は過去に何かあり、なんだか相性はよくない。

 まず、‟極夜”が続くという状況が面白い。こんなに夜の場面が多いドラマはかつて無かったのではないか。タイトル「ナイト・カントリー(夜の国)」の通りで、深い闇は真実が謎に包まれた本作の世界を象徴。映像も、真っ暗な風景に、車のヘッドライト、町の灯り、雪が光を差し込む、その美しさは従来の映画・ドラマで見たことがないほどだ。

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 主人公2人、ダンヴァースもナヴァロも、ワイルドでカッコいいのも見どころ。性に対しても積極的で(ダンヴァースは町の男みんなと寝たとまで言われる)、映画・ドラマのセックス描写には不要なものもあるかと思うが、極寒の地にふさわしいとさえ思える。

 只でさえ辺鄙な町に‟極夜”が重なり、捜査は迷走しまくるが、終盤では真実らしきものが見えてくる。ネタバレになるので一切ふれられないが、本作を象徴する、あるキーワードを連想する人はきっと多いはず。

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 本作を全米放送したのは『ゲーム・オブ・スローンズ』で知られるHBOだが、それにしてもメキシコ人ロペス監督の大抜擢はすごい。時にホラー映画のようなショッキング描写まで駆使するロペス監督の演出は、とにかくパワフル。シーズン5も指揮するのが決まったのは大いに納得。今から楽しみだ。

今回ご紹介した作品

トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー

配信
U-NEXTにて見放題で配信中

情報は2024年6月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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