地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
Pachinko パチンコ
2024/10/29公開
日韓それぞれの歴史がクロスする壮大なドラマ
画像提供 Apple TV+
韓国系米国人ミン・ジン・リーによる小説『パチンコ(上・下)』(文藝春秋)を、米韓日のスタッフ&キャストが共同でドラマ化。シーズン2の配信が始まったが、中でもシーズン1後半からこのシーズン2にかけてほとんどの舞台が日本で、日本のドラマ好きにとっても要注目の力作だ。キャストも、『SHOGUN 将軍』で第76回エミー賞、日本人初のドラマシリーズ主演女優賞に輝いたアンナ・サワイ、國村隼(ほかは後述)など充実。
画像提供 Apple TV+
ある朝鮮人の家系3世代(シーズン1にはその前の世代もいたので正確には4世代)の苦難の道のりを描く大河ストーリー。中心人物は2人、20世紀前半、朝鮮半島の影島(ヨンド)の貧しい家庭で生まれた女性ソンジャ(若かりし日々はキム・ミンハが、老いた後は『ミナリ』で好演して第93回アカデミー賞の助演女優賞に輝いたユン・ヨジョンがそれぞれ演じる)と裕福な在日朝鮮人コ・ハンス(イ・ミンホ)の関係、そして1989年以降、バブル経済真っ只中の日本という2つの時制を往復。後者の中心人物はソンジャの孫ソロモン(ジン・ハ)。日本生まれだが米国のイェール大を卒業し、ニューヨークでエリートビジネスマンになり、帰国して成功をめざすが、そこで自身の複雑なアイデンティティについて考えざるをえない事態におちいる。
画像提供 Apple TV+
シーズン1は1915~1930年代後半、ハンスの子どもを妊娠したソンジャが、彼に妻子がいると知ってショックを受けながら、海を渡って到着した大阪・鶴橋のコリアンタウンで彼と再会するというドラマティックな流れが見もの。苦労を続けるソンジャにとって愛とは。一方、ハンスは豊かだが心は満たされない。メロドラマとして絶好のシチュエーションだ。
そしてシーズン2。過去をめぐる展開では、第2次世界大戦が当時の日本に大きな影を落とす。大阪も米軍による空襲の危機が迫り、ソンジャは子どもたちを連れて地方の農村に疎開するが、ハンスに助けられるという皮肉。とはいえ終戦後、大阪に戻ったソンジャは大阪の闇市でたくましく生きるが、長男ノア(パク・ジェジュン)が早稲田大学に入学したことで、またもハンスが力を貸す。一方、20世紀末の日本でソロモンは起死回生に挑むが、バブル経済は終焉に近づいていき……。
画像提供 Apple TV+
本作の魅力は、韓国と日本、それぞれの歴史がクロスし、スケールがどんどんと大きくなること。長崎で被爆した在日朝鮮人のエピソードがあるが、これを取り上げる気概がある日本のドラマ制作者はいるだろうか。
またユニークなのはタイトル中の‟パチンコ”の取り上げ方。ソンジャの次男モーザス(日本出身のソウジ・アライ)はパチンコ業界に進出するが、彼が経営する店のセットが毎回のオープニングに出てくる。細かい点、完璧ではない気もしなくもないが、当時のパチンコ店をここまで再現するのは現在の日本の映画・ドラマでも困難で、ハイレベルだ。
小説自体、韓国・日本の現代史で起きた出来事・戦災・現象などをたくさん盛り込んでいて、日本の視聴者にも見どころは多い。主にカナダで撮影したからか、日本人から見て‟おやっ”と思う箇所もあるにはあるが、ストーリーを楽しめなくなるほどではない。
さて、そんなシーズン2、日本のシーンが増えたこともあり、前出の國村、中村蒼、祷キララ、村上弘明ら日本人キャストが加入。ぜひ『SHOGUN 将軍』旋風に続いてほしいところ。
画像提供 Apple TV+
またシーズン2のクライマックス、第6~8話を日本映画界で『フラガール』『悪人』『怒り』『流浪の月』を手掛けた李相日が監督。世界の一線に躍り出たのも吉報だ。
2024年10月中旬の時点でまだ決定していないが、シーズン3の製作も期待したい。
今回ご紹介した作品
Apple TV+「Pachinko パチンコ」(シーズン1、2)
- 配信
- Apple TV+にて好評配信中!
情報は2024年10月時点のものです。