地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
マッドネス
2025/1/21公開
21世紀の‟狂気”を描く逃亡者系サスペンス
Netflixシリーズ「マッドネス」独占配信中
CNNで番組を持っている、アフリカ系の作家・評論家マンシー・ダニエルズ(コールマン・ドミンゴ)は、米東部のペンシルベニア州ポコノ山脈にある一軒家に滞在し、執筆活動に専念しようとする。だが隣家で暮らしていた白人男性のばらばら他殺体を発見した直後、突然現れた男たち2人に銃撃され、一目散に森へ逃走する……。
迫力ある導入部から始まる『マッドネス』は、“殺人の濡れ衣を着せられた主人公の逃走”を描く点、サスペンスドラマとしてありがちに思えるが、“分断”“SNS”“大企業による市民の支配”など、21世紀ならではのキーワードがふんだんでフレッシュだ。
Netflixシリーズ「マッドネス」独占配信中
マンシーが見つけた遺体は、影響力が大きい白人至上主義のインフルエンサーだった。生前、マンシーと初めて会った時、彼が微妙な態度を取った理由は分かる。だからこそマンシーは濡れ衣を着せる相手としてうってつけだったのだろう。米国の一部ではまだ人種差別が深く根づき、これはリアルに思える。
警察やFBI、謎の組織などに追われるマンシーは、離婚が近い妻エレーナ(マーシャ・ステファニー・ブレイク)やZ世代の息子の助けを借りることに。その一方、亡くなった自身の父親の問題にも向き合いだす。きちんと主人公の内面を掘り下げる点、映画よりも長いドラマに向いたストーリーだ。
しかし面白いのはやはりその味付け。彼を殺人犯だと思い込んだ大衆までマンシーとその家族を追い始める。中盤、マンシーの妻子が暮らす家に、白人少年のグループがやって来る。SNSで知ったマンシーへの悪評を鵜呑みにした愚かな面々。マンシーは思わず拳銃を威嚇射撃してグループを追い払うが、その動画がまたネットで拡散してしまい、逆に自身の首を絞める結果に。米国ではこういうことが本当にありそう、というか、近年の日本のSNSでも起きそうなのが実は怖い。セリフにもしょっちゅう“フェイクニュース”が出てくる。海のこっち、多くの日本人もけっして他人事としてはならない。
Netflixシリーズ「マッドネス」独占配信中
ナンシーを追う面々で出色なのは、壮年の白人女性ジュリア・ジェイン。海外ドラマ好きには『ジ・アメリカンズ』『スノーピアサー』でおなじみのアリソン・ライトが演じるが、感情がないのかという冷徹な態度と意外に高い戦闘能力でマンシーを困らせる。
そんな物語が続くうち、善と悪の境界線はさらに曖昧になっていく。タイトル“マッドネス(狂気)”が本当にふさわしい。
とはいえ終盤、マンシーはCNNのジャーナリストとしての信用を武器に、反撃に乗り出す。現実の米国のTV報道といえば左派のCNNと右派のFOXニュースの影響力が大きく、この流れは楽観的に思えなくもないが、そこに作り手たちの“希望”が見える。
Netflixシリーズ「マッドネス」独占配信中
主人公マンシー役を演じるコールマン・ドミンゴは、映画『ラスティン:ワシントンの「あの日」を作った男』によって第96回アカデミー賞で主演男優賞にノミネート。これまで舞台を中心に活動し、トニー賞に2度ノミネート。40代になってから映画『ビール・ストリートの恋人たち』、2023年版『カラーパープル』、ドラマ『フィアー・ザ・ウォーキング・デッド』など映画・ドラマでも活躍し始めた遅咲きながら、その高い実力と存在感は、表現者として優秀だが私生活はぱっとしないマンシー役にぴたりとはまった。ドミンゴの最新作は2025年4月に日本で公開される予定の映画『SING SING(シンシン)(原題)』。しかも2025年完成予定のマイケル・ジャクソンの伝記映画『マイケル(原題)』でジャクソン・ファミリーの厳しい父親として有名なジョー役を演じるという。しばらく映画界をにぎわせてくれるにちがいない。
今回ご紹介した作品
Netflixシリーズ「マッドネス」
- 配信
- Netflixにて独占配信中
情報は2025年1月時点のものです。