地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
ザ・スタジオ
2025/6/27公開
大手映画会社の内幕に迫った傑作コメディ!
画像映像提供 Apple TV+
映画の撮影を題材にした映画は、映画の作り手たちの情熱と撮影現場で日々起きるトラブルが生みだす悲喜こもごもが面白いからか、魅力的な物語の宝庫だ。とはいえ映画王国ハリウッドの頂点、大手映画会社(メジャーと呼ばれる)を舞台にした映画は少ない。
そんな矛盾に真正面から挑んだ野心的コメディドラマがこの『ザ・スタジオ』。メジャーのクレイジーかつリアルな内幕を、超が付く豪華キャスト陣(後述)を得てコミカル&シニカルに描写。主演のセス・ローゲン自身が出世作『スーパーバッド 童貞ウォーズ』(2007年)以来の盟友エヴァン・ゴールドバーグらと企画。従来のハリウッド映画が描かなかった“聖林”の舞台裏はエキサイティングだ。
メジャー、というか、スタジオだけで通じそうなのがハリウッドの大手映画会社だが、そのひとつ、“コンチネンタル”の社長マット・レミック(ローゲン)はとても映画愛が強い。一方、“コンチネンタル”を儲けさせなくてはいけないというプレッシャーの中、理想と現実の間で悪戦苦闘し続ける。
画像映像提供 Apple TV+
まず第1話、マットは“コンチネンタル”の経営陣から同じメジャーのワーナーが『バービー』(2023年)を大ヒットさせたので、人気キャラが主人公の映画を作れと命じられる。映画ファンのマットは、名匠マーティン・スコセッシ監督によるシリアスな映画の企画を実現させようとしていたが、そこでマットは米国の伝統的粉末ジュース“クール・エイド”のマスコットキャラを主人公にした映画をスコセッシに撮らせようとする暴挙へ!
そんな第1話が描く「映画は芸術か娯楽か」に始まり、「(カメラを止めない)長回し(撮影)」「最近の映画は上映時間が長い」「映画はフィルムで撮るべきか」「多様性を重視したキャスティングは可能か」「ゴールデングローブ賞」など、近年の映画界で注目を集める最新の話題が各話のモチーフだ。
各話のゲストキャストもまさに映画級。第1話のスコセッシ監督に続き、第3話では『バックドラフト』(1991年)のロン・ハワード監督が高いテンションで自身を演じた。
画像映像提供 Apple TV+
本作が信頼できるのは、主人公マットの強い映画愛だ。あるトラブルが起きるとマットは過去の映画をいちいち思い出す。しかし現実と映画は異なる。中年になっても理想と現実のギャップに悩み続けるマットはどこにでもいる小心者で、共感を誘う名キャラだ。
作品のスタイルにもご注目を。カメラをなかなか止めない“長回し”という手法に本作はこだわっている。いつしかハリウッド映画は短い映像をテンポよくつなぐスタイルが主流になったが、本作はそんな時勢に逆行し、要所要所で“長回し”を使う。そこで俳優・スタッフが醸す緊張感・臨場感は圧倒的だ。
ハリウッドの内幕を描いた映画は実は少なくなく、『サンゼット大通り』(1950年)『雨に唄えば』(1952年)などの名作もそうだが、1992年の傑作『ザ・プレイヤー』はより鮮烈だった。カメラが撮影所内をノンストップで動き回る演出こそまさに“長回し”で、このドラマの製作陣もきっと意識したはずだろう。
画像映像提供 Apple TV+
それにしてもどうかしているのは、AppleTV+のオリジナルドラマなのに、NetflixやAmazonといった単語が重要な役割を担うこと。確かに動画配信はハリウッドを変えたが、それでも映画を愛する人たちの心は変わらないというのが本作の白眉だ。シーズン1の最後の前後編は恐らく一番クレイジーだが、映画愛を肯定する最高のクライマックスである。
そして本作、シーズン1が順次配信されていた途中でシーズン2の製作が決定。シーズン1がこの高品質なら、次シーズンはより豪華なゲスト出演陣を期待してもよさそうだ。
画像映像提供 Apple TV+
今回ご紹介した作品
Apple TV+「ザ・スタジオ」
- 配信
- Apple TV+にて好評配信中
情報は2025年6月時点のものです。