地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
トリガー
2025/10/10公開
銃社会ではない韓国に銃が蔓延したら…
Netflixシリーズ「トリガー」独占配信中
世界的ヒット作『イカゲーム』を生んだ韓国ドラマ界は、米国中心だった従来の世界の映像業界の勢力図を一変させるほどのインパクトをもたらしたが、これまた野心的なサスペンスアクションドラマがこの『トリガー』。トータルの製作費は一説によれば日本円にして約30億円(!)だとか。
OECD加盟国で最も自殺率が高く(筆者が調べたら20年以上も続いている)、ストレスを溜めた国民が多いと思われる韓国。公務員を目指して10浪もしている(!)青年が銃を乱射する事件が発生。その直前、ある自殺した人物の家から自動小銃に使う銃弾が大量に見つかっており、兵士として海外に赴任したことがあり銃に詳しい警官イ・ド(キム・ナムギル)は捜査を手伝っていた。なんと乱射犯は自動小銃や軽機関銃を持っていたが、銃の規制が厳しい韓国でどうやって手に入れたのか。さらに別の乱射事件が続き……。
Netflixシリーズ「トリガー」独占配信中
基本的に激しい銃撃戦を売りにしたアクションだが、犯人たちがそこに至るまでのプロセスをひりひりと描いたサスペンスでもある。そして格差に苦しむ人々を描いた社会派ドラマでもあるのは、『イカゲーム』や多くの映画と同様、韓国ならではだ。
本作のタイトル“トリガー(Trigger)”は重要な小道具である銃の部品“引き金”のことだが、劇中である医師は“人は誰しもが心の中にトリガーを持つ”と語る。Triggerという英単語は名詞であると同時に、“(何かを)引き起こす・もたらす”という動詞でもある。銃を手に入れたことで心の闇を露呈させてしまう、哀しき現代人たちの群像劇だ。
連続ドラマというと恋愛の要素があるのが当たり前と思っている人がいるかもしれないが、本作はそのあたりをすっぱり切り捨ててサスペンスに徹しているのもお楽しみ。
但し本作、惜しいのは、社会派性と娯楽性が序盤はいいバランスで両立していたのが、次第に娯楽性が強くなりすぎること。第1話の冒頭でいきなり韓国(そして世界)の格差の問題を取り上げたのに、その辛辣さは薄まっていく(後半もいじめが横行する学校での銃撃戦という凄絶な場面はあるが)。なんだろう、上手い例えではないかもしれないが、バットマンとジョーカーが登場してもおかしくないハードでダークな世界観なのにバットマンもジョーカーも出てこない、そんなもどかしさを筆者が感じてしまった。あとこれは少々ネタバレになるが……。
Netflixシリーズ「トリガー」独占配信中
そもそもネットを通じて銃をばらまくなんて可能なのだろうか。社会問題をリアルに取り上げた作品だからこそ、そこはきちんと描いてほしかったと思わずにいられない。もっとも韓国には徴兵制があるから、銃を扱える男性が多いと聞いたことがある。
それと、“怒り”や“衝動”という普遍的なテーマをリアルに描こうとしたからか、全体的に登場人物が地味かもしれない(ここはぎらぎらとした面々が集まっていた『イカゲーム』の面白みを再確認)。そんな中で一番光っているのは、第2話から登場する謎の男ムン・ベク。モデル出身であるイケメンのキム・ヨングァンが、善か悪か分からない役どころをナチュラルに演じており、おじさん(=筆者)も思わずときめいた(?)。
それでも第1~2話のコシウェン(筆者は初めて知ったが受験大国の韓国で受験生向けの簡易宿所だったのが只の簡易宿所になってしまった施設とのこと)での銃撃戦など各アクション場面は迫力たっぷりだし、荒唐無稽だからこそ目が離せなくなるのは確か。全10話なので一日あれば完走可能。欧米のアクションドラマ好きにもぜひお薦めしたい。
Netflixシリーズ「トリガー」独占配信中
今回ご紹介した作品
Netflixシリーズ「トリガー」
- 配信
- Netflixにて独占配信中
情報は2025年10月時点のものです。