地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
プルリブス
2026/1/19公開
『ブレイキング・バッド』のヴィンス・ギャリガンによる注目作

画像・映像提供 Apple TV
『ブレイキング・バッド』という海外ドラマをご存じだろうか。そのスピンオフである前日譚『ベター・コール・ソウル』も。前者は5シーズン、後者は6シーズン続いた、いずれも21世紀の米国ドラマの金字塔。未見の人は今からでも遅くないのでぜひお薦めだ。
そんな『ブレイキング~』『ベター~』を生み出し、エミー賞だけで4度も受賞したクリエイターがヴィンス・ギャリガン。その3年ぶりの新作がこの『プルリブス』。近日発表の第83回ゴールデン・グローブ賞でドラマシリーズ作品賞とレイ・シーホーンに対する同主演女優賞の2部門にノミネートされシーホーンはみごと受賞、今秋発表のエミー賞にも期待がかかる。
『ベター・コール・ソウル』で重要な役を演じて評判だったシーホーンが本作で演じるのは、人気作家キャロル・スターカ。ある晩、彼女が女性のマネージャーといると、マネージャーは倒れ、周囲の全員も動きを止め、けいれんしている。マネージャーを病院に担ぎ込むと、そこでも全員の様子がおかしい。帰宅したキャロルはTVから謎の声に呼びかけられる。なんとそれはエイリアンで、世界の人々の心を乗っ取り、地球人全員を同じ人物に“一体化”し、数少ない失敗例であるキャロルもこれから“一体化”するという。

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エイリアンによる地球乗っ取り……だが、ここからが本作は型破り。エイリアンもUFOも秘密兵器も登場せず、人々はこれまで通りに暮らす。そしてエイリアンは“一体化”を急がず、キャロルが望むものをすべて彼女に提供。キャロルが会った海外の失敗例(世界で十数人しかいない)も“こんなに楽に生きられるのに”と現状を肯定する始末。またキャロルは同性愛者だが一切差別されない。
最初は抵抗したキャロルだが、やる気を失っていく。果てして地球の運命は……。
エンタメのジャンルでいうと“侵略SF”であり、ジャック・フィニイの小説『盗まれた街』と似た世界観だ。エイリアンが一度世界を止めた数時間、世界で数億人が命を落とした(!)と知るキャロルだが、味方になる人間はおらず、さらに無力感にとらわれていく。
『盗まれた街』は1940~50年代の米国における“赤狩り”を風刺したといわれる。米国による共産主義者への弾圧だ。ひるがえって“一体化”は21世紀、現実の世界でも起きている。政治家や財界の一部は権力を笠に着て、弱者に対する支配を強めている。
重要なことはもうひとつある。楽な暮らしを選んで権力に逆らわない人間が増えてはいないか。本作でギャリガンはキャロルを通じ、警鐘を鳴らしているように思える。

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ちなみにギャリガンは『ブレイキング・バッド』などで犯罪ものの名手のように思われるかもしれないが、都市伝説や怪奇現象を描いたヒットSF『X-ファイル』に参加していた。そして行き着いた最悪の怪奇現象こそ、“現代人の非人間化”なのではないか。
筆者が本稿を書いた2025年12月の時点でまだシーズン1は完結しておらず(シーズン2の製作は前々から決定)、エイリアンの正体はおろか目的も不明だが、名手ギャリガンによる空前絶後の侵略SF、これから何年も続いてほしいというほどたまらなく面白い。
さて本作を大変気に入った筆者でも当惑したのはタイトルの『プルリブス』。初めて聞く単語だったこともあり、まぁ憶えにくい。これはラテン語の「エ・プルリブス・ウヌム」からの引用だ。この成句はアメリカ合衆国の国章に書かれ、訳すと「多数から一つへ」。つまりアメリカが多州から成る統一国家であることを意味すると同時に、アメリカそのものを象徴している。今さらながら多様性を大切にすべきというメッセージを感じる。

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今回ご紹介した作品
Apple TV「プルリブス」
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情報は2026年1月時点のものです。














