相田冬二さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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神の雫/Drops of God

2023/10/17公開

ワインに運命を狂わされた二人の物語

Huluオリジナル「神の雫/Drops of God」 ©️ Hulu Japan

 日本におけるワイン人気を高めたアイテムのひとつ、漫画『神の雫』。連載開始から20年となる今年、国際連続ドラマ「神の雫/Drops of God」として、全8話で生まれ変わった。

 ドイツ出身のプロデューサー、イスラエル生まれの監督。原作では男性の主人公は、フランス人女性に置き換えられた。ワインの本場、ヨーロッパならでは采配。

 その一方で、漫画では好敵手として登場した遠峰一青は人物名もそのままに、山下智久が演じている。キャラクター描写は同格で、これはW主演と言っていい。

Huluオリジナル「神の雫/Drops of God」 ©️ Hulu Japan

 高名なワイン評論家が死去。故人の遺言により、彼の遺産=膨大なお宝ワイン群の相続を巡って、日仏の男性女性が、ブラインドテストで対戦する。

 いかにもゲーム的な展開だが、人物の背景が丹念に描かれ、見応えがある。特にワインに詳しい必要はなく、たとえワインに興味がなくても、ワインに運命を狂わされた二人の物語として、かなり楽しめるだろう。

 漫画/アニメ「巨人の星」の星飛雄馬ばりのワイン特訓を受け、それがトラウマになったフランス人女性(亡き評論家の娘)の設定は、実は日本を意識してのことなのではないか。そのカミーユ・レジェを演じるのが『エンジェル、見えない恋人』で映画デビューしたフレール・ジェフリエというのもコアな映画ファンなら嬉しいところ。かつて盲目の女性の特異な恋を体現した女優が、ワインのブラインドテストに挑み、イマジネーションを爆発させる天才に扮しているのだから、気が利いている。極めて批評的なキャスティングと言えるだろう。

Huluオリジナル「神の雫/Drops of God」 ©️ Hulu Japan

 対して、遠峰一青(評論家の愛弟子)は努力型。御曹司でありながら、ワインへの情熱ゆえ、親の期待からはドロップアウトしていく。「巨人の星」で言えば、まさに花形満である。

 山下智久は、持ち前のクールネスで、全編を演じ切る。大部分を占める英語台詞も、口を大きく開けないウィスパーな響きを優先させて、遠峰一青の熱い想いを秘めたものにする。隠しているからこそ、本気。そのありようが、じわじわと伝わってくる。

 カミーユはパッションで弾けるが、一青は冷静に熱情を仕舞い込む。共に、ワインに人生を支配されている者同士。共通点と相違点の妙が面白い。

Huluオリジナル「神の雫/Drops of God」 ©️ Hulu Japan

 考えてみれば山下智久は、ギャップ萌えを持ち味としてきた俳優だ。実は熱い男だが、決して暑苦しくは見せない。涼しい顔で、ちょっととっつきづらいくらいの建前を保持する。ツンデレほどわかりやすくはないが、ある頑なさがふいにズレて、ほのかに溢れたり、滲み出したりする瞬間の風情がたまらなく佳い。

 今回も、洗いざらしの笑みを絶妙なタイミングで覗かせたり、好奇心たっぷりの眼差しを不意に感じさせたりと、ちょい見せのチャームの遍在ぶりは、もはや名人芸。

 国際的なステージも、プレッシャーのかかる重積な役どころも、どこ吹く風。そんな山下智久その人のありようもまた、ドラマの素敵な余韻に直結している。

今回ご紹介した作品

神の雫/Drops of God

配信
Huluにて独占配信中

情報は2023年10月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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