地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
パリピ孔明
2023/12/11公開
適材適所のキャスティングで地に足がついたエンタテインメントに
人気漫画の実写化は、連続ドラマのルーティンだ。大抵の場合、既に連続アニメーション化されていて、コンテンツとしては後手後手にまわることが多い。
本作もやはりそうで、これは一種の抱き合わせ商法なのかな、ぐらいに捉えていた。
あの諸葛孔明が、現代の渋谷に舞い降りる。プロシンガーを夢みる女性の歌声に惚れ込み、彼女の軍師として、マネージメントと宣伝プロデューサーを務め、大きな音楽フェス出演までの難関をクリアしていく。
物語のアウトラインはアニメ版から大きく逸脱する部分はない。だが、生身の人間が演じることでグッと厚みが増し、絵空事にも思えたエンタテインメントがしっかり地に足がついた。
ゲーム性を抑え、孔明の過去の栄光を画で見せる手法を選ばず、音楽業界で生きるミュージシャンへのリスペクトを最大限行う。派手さよりも、泥臭いほどの地道さで進んでいく愚直さが功を奏している。
最大の勝因は、キャストだろう。
ヒロインのバイト先であるクラブのオーナーをキーマンとし、そこに演技派、森山未來を持ってくる采配。そして、タイトルロールを向井理が体現する痛快さ。さらには、ヒロインにちゃんと歌える上白石萌歌をキャスティングする。ドラマはこの三者をしっかりとした軸にし、そこに毎回、ゲストミュージシャンたちの悲哀を盛り込んで魅せる。これは手練れの仕事であり、往年のプログラムピクチャーの職人技も感じさせる。脚本が「正直不動産」の根本ノンジなのも適材適所。抜かりがない。
孔明好き、つまり「三国志」好きのオーナーを演じる森山未來はいつものような攻めの芝居ではなく、受けにまわっており、新鮮。森山は一種の天才だが、キュビズム以降のピカソが画風ではなく、従来有していた画力をあえて発揮している不思議な趣があり、基本に忠実な演技アプローチがむしろキャラクターの懐深さを垣間見せる。渋い。
画的にはほぼコスプレだからこそ、孔明には風格が求められる。向井理は落ち着いた物腰で、浮ついたところは一切見せない。彼もまた画風ではなく、画力で勝負している。稀代の軍師、諸葛孔明がはしゃぐはずもなく、淡々と策を練り、それを実行に移すだけなのだ。ヒロインを支配するのではなく、彼女のポテンシャルが自然に生まれ出るように仕向ける作戦も、レディファーストでジェントルな振る舞いで成立させている。向井孔明もまた、前に出る芝居ではなく、あくまでも受けに徹している。向井と森山の共演は、だからこそ見応えがある。
アニメではかなり浮ついて見えたヒロイン造形も、上白石萌歌がひたむきに体現することで、地味で自信なげな人物像を説得力のあるものにした。物語設定は「あり得ない」かもしれないが、人間的には「存在し得る」。これが、あらゆるフィクションを演じる際の基本中の基本だが、上白石の芝居には、その普遍がある。彼女もまた無闇なキャラクタライズに走ることなく、画風よりも画力を優先した方法論で乗り切った。つまり、3人ともプロフェッショナルなのだ。
特筆すべきは、向井も森山も上白石も、全員、引き算の芝居に終始した点。トリオのチーム編成の場合、通常なら、押し引きのポジショニングで緩急を盛り上げるところだが、そうしたルーティンに堕すことがなかった。これは高度な取り合わせであり、芸達者をこれだけ揃えると、こうした冒険もできるのである。
その分、悪役、関口メンディーが一人、ツイストの効きまくった役どころとなり、そのデフォルメが終盤の作品世界にうまく融合しきらなかったのは残念だが(関口の演技そのものは良かった)、映画を思わせるリッチな映像の中で、激渋な芝居コラボが堪能できるお得な一本である。
今回ご紹介した作品
パリピ孔明
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情報は2023年12月時点のものです。