相田冬二さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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機動戦士Gundam GQuuuuuuX

2025/6/6公開

スタジオカラー×サンライズ!『GQuuuuuuX』が描く新境地

 1979年に放映された「機動戦士ガンダム」は、それまでのロボットアニメの文脈を塗り替えるばかりでなく、その後の文学やジャーナリズム、そしてサブカルチャーに決定的な影響を与えるアイコンと化した。

 その16年後にスタートした「新世紀エヴァンゲリオン」が一世を風靡し、新たなアニメーション世界を切り拓いたのはご存知の通り。オリジナリティ溢れる“エヴァ”もまた“ガンダム”の末裔ではあった。

 エヴァは終結したが、ガンダムはパラレルな世界観を生き、その都度自由な解釈を許すことで、いまもなおシリーズは継続中である。

 エヴァで知られるスタジオカラーが、ガンダムを生んだサンライズとコラボする。有名ブランドのダブルネームと言っていい「機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)」は、まずTVシリーズ約4話分の劇場版が公開された。

 スタジオカラーは、『ゴジラ』「ウルトラマン」「仮面ライダー」といった国民的長寿人気コンテンツを『シン』の名の下にリビルド(再構築)してきたが、「ジークアクス」には“シン・ガンダム”のムードが漂わない。カラーの顔役である庵野秀明が脚本や絵コンテにクレジットされてはいるものの、庵野色は薄く、これがあくまでも監督の鶴巻和哉や脚本の榎戸洋司(両名ともエヴァと庵野を支えた辣腕である)の作品として自立しているからである。

 劇場版の冒頭(そしてTVシリーズ第2話)には超人気キャラクター、シャアが登場、ファンを歓喜させたが、本作の主眼は郷愁ではない。ファーストガンダム(初代ガンダム)へのリスペクトはあるが、これはあくまでも“その後”の物語であり、別の世界線のストーリーなのだ。

 主人公は女子高生、通称マチュ。スペース・コロニーで暮らし、まだ見ぬ地球に憧れている。彼女が運び屋をしている謎の少女、ニャアンと出逢ったことから、運命が動き出す。違法バトル賭博“クランバトル”に参戦、ガンダムを操縦して闘うことに。自身の未知の才能に気づくマチュはおそらくニュータイプなのだろう。

 と、ここまでは想定内、イメージ通りだ。だが、クランバトルがペア戦で、相棒のことを“マブ”(マブダチ=親友を想起させる)と呼ぶ設定から、独自性が発揮される。

 さらに謎の少年パイロット、シュウジが加わり、マチュ、ニャアンとの三角関係めいた展開にもなる。ここに現代性がある。

 マチュはバトル中に“キラキラ”を幻視し、それを一緒に闘っているシュウジと共有していることを体感する。まるでドラッグのような“キラキラ”を追い求めてバトルに明け暮れるマチュ。だから、あるトラブルからマチュの代わりにニャアンが操縦したことから、少女ふたりの間に亀裂が走る。

 バトルが性愛のメタファーであることは明白だろう。そして、彼女たちに必要とされるシュウジが独占欲がなく中性的な流浪の民であることが重要なポイントとなる。

 ホームレスめいたシュウジ、そして移民を思わせるニャアンが、そもそもはお嬢様であるマチュの渇望を照射する。

 マチュとニャアンはデュオであり、エンディングクレジットでは共同生活を送る様が映像化されている(劇中にはない)。シスターフッドで結ばれたふたりが一人の男を奪い合う。古典的でもあり、アクチュアルでもあるこの構図が、とにかく刺激的だ。

 バトル描写は創意工夫に富み、緩急に満ちている。無論、大人たちの政治的目論見も描かれるが、求心力は三者の関係にある。主体性を放棄しているかのようなシュウジ、主体性を奪われているかのようなニャアンとの邂逅が、今まさに主体性に目覚めつつあるマチュにもたらすものとは一体、何なのか。そのありようは、ありきたりの青春でも恋愛でもない。きっと“キラキラ”のその先が描かれることだろう。

 かつて脚本の榎戸洋司は「少女革命ウテナ」という異形のアニメーションを手がけたことがある。そこではシュールな決闘がリフレインされ、少女ふたりの危うい関係が見つめられた。「ジークアクス」には「ウテナ」のような退廃や耽美はないが、満たされない者たちの肖像であることは一致している。

 人は、満たされないからこそ、何かに憧れる。マチュにもニャアンにもシュウジにも三者三様の憧れが存在する。そこに、行方不明のシャアがどう関わってくるのか。シリーズもいよいよ後半戦。“本題”に期待が高まる。

今回ご紹介した作品

機動戦士Gundam GQuuuuuuX

放送
日本テレビ系にて毎週火曜24時29分~放送中
配信
Hulu、Prime Video、Netflixほかで配信中

情報は2025年6月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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