相田冬二さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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ぼくたちん家

2025/12/12公開

解決できない社会問題をフラットに優しく描く、擬似家族の物語

 ミッチーこと及川光博、久方ぶりの主演作ということで大きな期待を抱いた「ぼくたちん家」。想像以上に素晴らしく、想定外の大収穫もあった。

 家がない、家族がいない、という意味での「ホームレス」がうっすらとした主題として背景にある。

 公私共に動物に囲まれて生きる主人公は50歳の同性愛者。そんな彼が引っ越しを契機に「家が欲しい」と考える。それは現実的には「マンションなどを購入する」ということだが、精神的には「誰かと一緒に暮らしたい」ということであり、単に恋を意味するわけではない。

 古めかしく風変わりなアパートに越した彼はそこで、一人暮らしの女子中学生と出逢い、また、彼女の担任教師で車中泊生活を余儀なくされている同性愛者とも知り合う。連ドラを観てきた視聴者であれば、すぐにこれが「擬似家族もの」であることを予感するだろう。

 同性愛者たちの結婚は未だ全面的に認められているわけではない。また、その存在もまた受容されているとは言い難い。その一方に、貧困やネグレストにあえぐ子どもたちが存在する。ドラマはこうした「解決できない社会問題」を踏まえながら、この三者から始まる物語を、できるだけフラットに、できるだけ優しく描く。リアルとファンタジーが同居しており、救済と絶望が互いを見つめあっている。

 大人になっていいことはあるの?

 15歳の女の子が、50歳の同性愛者に問う。本作は、この「答えようのない答え」に正面から向き合っているように感じられる。そのためには、シリアスなだけでもダメだし、お気楽なだけでも全然ダメだ。だからこそ、塩梅というものが重要になる。

 主演・及川光博はさすがの好演。人当たりの良さで、個性的な登場人物全員のホストとして存在する一方、意固地なこだわりでマイペースを(ゆるやかに)貫くキャラクターを、淡々と成立させている。淡い線と太い線が共存するイラストレーションを見ているかのよう。塩梅の最たる演技にうなる。

 父も母も死んではいないのに一緒に暮らしてはいない中学3年生に扮した白鳥玉季はやや美少女すぎ、芝居も輪郭がくっきりしすぎではあるが、明快な航路を示すわけではドラマの「灯台」として、海面を照らしている。

 そして、この二人のあいだに立つ、教師を演じる手越祐也の妙演には驚かされる。前述したリアルとファンタジーの間隙を抜く独特の佇まいから、さまざまな発見がもたらされる。正直、ここまでの演技巧者とは全く思っていなかった。先入観なしのノーマークだからこそ、彼のアプローチの全てを素直に受け取ることができる。

 一緒に暮らしていた恋人と上手くいかなくなり、部屋を飛び出し、車中泊をしている教師。それを見かねて、主人公が声をかけ、交流が始まる。お節介が過ぎる主人公は明らかに教師に好意を抱いているが、さまざまな諦念と共に生きる教師は醒めている。この温度の低さにリアルがあり、世代間ギャップもごく自然に伝わる。

 教師として沢山の生徒に接しているからか、彼の受け答えはカジュアルで、分け隔てはない。だが、ふとした瞬間の黙考の様相に、どうにもならない暗さが垣間見える。弱者としての、アウトサイダーとしての己を受け入れているのか、いないのか、そのどちらでもあるかのような未分化な心のありようを、無言で、無表情で感じさせる奥行きがある。ほんの一瞬のことなのに、いや、だからこそ、その様子を見つめてしまう。他者からの理解を阻んでいるようにも思えるその感触にむしろ惹きつけられる。

 挫折と失敗を繰り返し、その記憶から自由でもないのに主人公には昭和の明るさがある。おそらく平成生まれであろう教師の陰翳はだからこそ、効く。及川と手越には俳優としての共通点があり、それは、必ずしも、ボケとツッコミという役割分担に自閉しないことである。時にはツッコミとツッコミ、ボケとボケにもなり得る現代性がある。このコンビネーションのタイトロープぶりが、作品の機動力となる。このキャスティングは圧勝と呼ぶしかない。

 それにしても、エピソードを重ねるほどに、手越はどんどん良くなる。言うまでもなく、主人公と教師は接近していくのだが、教師が「それも悪くないな」と主人公の提案に対して思うときを手越は、たとえば、ただ振り返るだけで実現させてしまう。もちろん絶対説明には陥らない表情や、ありきたりではない風情も素晴らしいが、人間の、ある、自動化された行為を通して、ふっと風を吹かせるのだ。

 神業と言っていいし、神風と形容すべきかもしれない。

 人生は、日々の積み重ねで形成されている。一日は、時間や分が折り重なることで始まり終わる。そして、人生における大切な分かれ目は、何も一世一代の決意ではなく、ほんの気が向いたときに訪れる可能性がある。手越の、静かな、けれども決定的な岐路の「迎え方」は、日常と非日常のはざまを突き抜ける風のように当たり前に、そのことに気づかせる。

 暮らしという堆積への低姿勢をキープしながら、些細に見えて愛おしい「選択」を、あるときは少し上を向きながら、あるときはほんのちょっとだけ下を向くだけで可視化してしまう手越祐也から目が離せないでいる。

今回ご紹介した作品

ぼくたちん家

放送
日本テレビ系にて毎週日曜22時30分~放送中
配信
huluにて配信中

情報は2025年12月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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