地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
繁花(はんか)
2026/3/13公開
ウォン・カーウァイ監督10年ぶりの新作

©2023 BLOSSOMS ISLAND PICTURES LTD. ALL RIGHTS RESERVED
今のところ最後の長編映画『グランド・マスター』以来、10年ぶりの新作。ウォン・カーウァイが初めて手がけたTVシリーズ「繁花」が遂に日本でも放送される。全30話のうち、最初の3エピソードだけ試写で観ることができた。
準備7年、撮影3年。これくらいの時間が投入されることはウォン・カーウァイのキャリアを知っている者には何の不思議もない。特筆すべきは原作があること。本国・中国でも高視聴率を獲得したことだ。
舞台は1990年代、経済成長期の上海。生き馬の目を抜く動乱の中、財界の大物に成り上がった青年が、大晦日、新年を迎える直前、何者かに車で轢かれる。
ドラマはそこから、彼が登り詰めるまでを遡る。

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一攫千金を狙い、親や親友から金を借り、ビジネス社会の影のメンターに弟子入りする主人公。老師の手ほどきから、ルックが様変わりし、自信をつけていく過程はうっとりさせる。
シャープでリッチな映像美、監督自身のキャリアが始まった時代を再構築した美術、衣装は相変わらず酔わせ、矢継ぎ早に繰り出される会話劇は、決して立ち止まることがない。
華奢な主人公、含蓄のあるベテラン脇役、そして、ベクトル多様な美女たち。ウォン・カーウァイだからこそのビジュアル効果はふんだんに振りかけられており、ブランド力は十二分に感じられる。
だが、テンポ重視の演出は、ウォン・カーウァイならではのエモーションを抑止しており、わたしたちが期待する叙情性はほとんど見当たらない。
しかし、だからこそ、わたしたちは、この監督の本質を目の当たりにするとも言える。

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ウォン・カーウァイは一貫して“時間”を見つめ抽出してきた映画作家だ。ほとんどの作品では恋愛が媒介となり、その“時間”の迷宮感覚はよりめくるめいたものになった。
取り引きを巡り右往左往するとは言え、たとえばヤクザの抗争劇(ウォン・カーウァイの初期作や黎明期に手がけた脚本にはそうした要素がある)に較べればはるかに即物的で、映像的な色気やスペクタクルに乏しいビジネスの攻防と存亡は、逆に言えば、この監督が仕掛ける“時間”の素肌を鮮明に浮かび上がらせる。

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シックではあるものの、決して派手ではない映像が全く退屈ではない根拠がそこにはある。
ウォン・カーウァイが創り出す“時間”は、それが今のことなのか、それとも過去のことなのか、はたまた未来のことなのかをわからなくする。
本作が、主人公が轢かれ、過去が描かれ、また現在に戻ってくるという構成を選んでいることは、“時間”を操作しますよ、という予告であり、だからこそ、本来であれば、適度にムーディで、適度にノスタルジック、適度にスリリングであるはずの、ちょっとバブリーな業界物語が、ちっともそうは見えなくなる。
初回の印象的な台詞は、その示唆でもあった。
“今日の太陽は、明日の洗濯物を乾かさない”
中国古来の言葉なのか、原作からの引用なのか、それはともかく、この一言だけでも、苛烈なビジネス戦争から逸脱し、脱線させてしまうような“時間”の感覚がある。
前後不覚になるーーいつになくスピーディなカット割りの継続は、ドラマとしての見やすさというよりは、単純なストーリーから筋書きを骨抜きにし、わたしたち視聴者がいったい何を見ているのかわからなくなるような効果に貢献している。
百聞は一見にしかず。

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今回ご紹介した作品
ウォン・カーウァイ監督「繁花」
- 放送
- WOWOWにて3月20日11時~(1話~10話)、3月21日11時~(11話~20話)、3月22日11時~(21話~30話)放送
- 配信
- WOWOWオンデマンドにて放送同時配信・アーカイブ配信(各話放送直後より)あり
情報は2026年3月時点のものです。














