相田冬二さんのドラマ批評 - 惡の華

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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惡の華

2026/5/8公開

鈴木福×あの主演 押見修造の壮絶な青春漫画をドラマ化

画像:惡の華

©「惡の華」製作委員会 2026 ©押見修造/講談社

 現実の熊が大暴れしたことで公開延期を余儀なくされ、いざロードショーされた際はさほど話題にならなかった映画『ヒグマ‼』だが、ここでの鈴木福の演技は実に素晴らしいものだった。

 闇バイトに手を出したことで、散々な地獄巡りを味わうことになり、挙げ句の果てには恐怖のヒグマに遭遇する様を、決死の顔芸で表現しており、同時に主人公のどこか憎めないチャームも可視化する姿は、名子役がいよいよ熟練の域に達しつつある趣があった。

 現在の鈴木福には、どこか古風なプログラムピクチャーにフィットするたたずまいがあり、これが得難い個性になっている。そんな鈴木福の新作主演ドラマが「惡の華」と知り、合点がいった。「惡の華」の原作は、押見修造の同名漫画。過去にアニメ化、映画化されている名作だが、押見は映画監督、内藤瑛亮と親交が深い。そして、『ヒグマ‼』の監督は内藤であった。実際、昭和の地方都市と思しき舞台設定の「惡の華」は鈴木福との相性が抜群だ。

 憧れのクラスメイトの体操着を盗んでしまった少年が、その弱味を握った凶暴な性格の女子生徒に翻弄されていく物語。思春期特有の、歪んでいながら案外シンプルでストレートな関係性が紡がれる。

 無論、ある種の変態性と倒錯性によって彩られる世界観だが、深夜とは言え、地上波で放映できる水域を保っているのは、前述した通り、鈴木福のノスタルジックかつ節度のある存在感によるところが大きい。ここでも彼ならではの顔芸は堪能できるが、『ヒグマ‼』よりはグッと抑え目で、それはもう一人の主演者とのバランスを考慮した上での選択だろう。抜かりがない。

 演技経験があるとは言え、まだまだ風変わりなバラエティタレントの印象が強い“あのちゃん”こと、あの。サブカルの時代が完全に終わった後に登場したサブカルの香り高き彼女には、時代錯誤な魅力があるが、この錯誤を昭和の地方都市に移植する采配はある意味、盤石と言ってよい。

 強烈なキャラクターながら、あのは決して迫力で振り切るということはせず、関係性への希求を拗らせた少女の可憐なズレこそを掬い取る。鈴木福の節度あるアプローチに呼応した、意外にも奥ゆかしい柔軟性で、ストーリーをローリングしていくのだ。

 発語で圧したり、眼差しで刺したりする瞬間はほとんどなく、すり抜けるように移動したり、所在なげに立ち尽くしたりと言った風情に賭けた芝居のありようには、デリケートな煌めきがある。

 丁寧だが、立ち止まることのない初回のありようには、漫画原作を実写化する際に必要な(コスプレとは次元の異なる)リスペクトが存在し、また、30分枠を熟知したテレビ東京ならではの構成力も光った。

 鈴木福とあのの、控えめなリレーションシップが最後の最後まで持続することを祈りたい。

今回ご紹介した作品

惡の華

放送
テレビ東京系にて毎週木曜24時~放送中
配信
Disney+などで配信中

情報は2026年5月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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