相田冬二さんのドラマ批評 - 刑事、ふりだしに戻る

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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刑事、ふりだしに戻る

2026/6/1公開

10年前に転生した刑事が事件を解決

画像:刑事、ふりだしに戻る

©「刑事、ふりだしに戻る」製作委員会

 恋人を殺され、犯人も捕まえられず、失意の日々を過ごし、ついに警察を辞めることを決意した刑事。容疑者が出所、ようやく事の次第が氷解しかけた矢先、被弾し、絶命してしまう――10年前に転生した彼は、事件を阻止するべく奔走することになる。

 まあまあ込み入った設定に、そこそこ多い登場人物ということもあり、設定=前提をイントロデュースするのに時間がかかりすぎなきらいはある。だが逆に言えば、ここまで丁寧なスロースターターも昨今では珍しい。手を抜かず、すべての食材をできるだけ自家製にしている……そんな飲食店を思わせる。

「刑事、ふりだしに戻る」は、一見、昨今定番の転生ものと、連ドラの王道、刑事ものを混ぜ合わせただけのお気軽な企画に映る。が、作品の誠実な作りが、そんな安易な先入観をやがて解いていく。すぐに、ではなく、じっくりと、だ。ある意味、視聴者の持久力も問われる。近年のわたしたちはとにかく我慢が足りなくなり、即効性のある即席麺ばかりを求めがちだ。だが、本作は、まだるっこさも味のうち、“待つ”美味しさが、鍋の底に張り付いている。そのおこげをこそげとる能動性が求められている、とも言える。

 勧善懲悪・気分爽快というようなスムーズさとは無縁。かと言って、これ見よがしなダークネスや癖の強さは見当たらない。個性派を気どる圧は皆無で、地道にことこと煮詰めていく。主人公が10年前からやり直すわけだが、何もトントン拍子では進まない。日々生まれる事件の犯人を記憶してはいるが、当時新米だった彼は自分のペースで捜査を進める立場にはないし、なんと、その過程は自分の想定からどんどん逸脱していくのだ。なんなら、彼が転生したことで、その過去は微妙に変化してもいることを刑事は知る。

 モノローグはあるにはあるが、モノローグに頼るような芝居ではない。名優、濱田岳のアプローチは、失意の男の焦りと空白、喪失と希望を同時に存在させ、あくまでも日常にまぶして見せる。状況をすんなり受け入れ、周囲に漏らすこともしない、柔軟な機転。同時に、この人物特有の、どうにもならない頑なさがごろりと転がる。濱田は、それを不器用として演じるのではなく、魂のシンプルさと振る舞いの複雑さを溶け合わせ、ギャップの乳化を達成している。

 日々の小さな事件をつぶさに追うことも含め、生き直していく刑事の姿には、教訓もあれば普遍性もある。だが、濱田岳は決して人間を大枠では捉えない。あくまでもミクロな生きもののせめてもの抵抗や反骨として、ささやかな痕跡だけをその都度残す。

 たとえば、少女の身長に目線を合わせるため、しゃがむ瞬間。10年後を生きてきた人間が、10年前を再び生きるとはどういうことなのかを、理屈抜きで体現している。全てが自然であり、こういうことは案外どこかで起きているのかもしれないと錯覚させる力がある。

 名バイプレイヤーとして名高い濱田の主演を心から喜びたい。彼の演技の懐深さが、SFも人情も刑事ものも、全て塗り替えていく予感に満ちている。

今回ご紹介した作品

刑事、ふりだしに戻る

放送
テレビ東京系にて毎週金曜21時~放送中
配信
Prime Videoにて配信中

情報は2026年6月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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