地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
ストレンジ -伊藤潤二の夜も眠れぬ奇妙な話-
2026/8/7公開
伊藤潤二の傑作の13作品をオムニバス形式で実写ドラマ化

©「ストレンジ -伊藤潤二の夜も眠れぬ奇妙な話-」製作委員会
伊藤潤二の漫画を映像化する単発シリーズ「ストレンジ -伊藤潤二の夜も眠れぬ奇妙な話- 」は30分ほどの尺も含め、実に現代的なコンテンツとして成立している。
テレビドラマというシステムは、いくら映像技術が進歩しても、ネットでの動画視聴が日常化しても、根本的にはまるで変わらないまま、昭和の仕草を続けている。
連続性を拠り所にして、虚構のキャラクターに愛着を抱く――というルーティンは、ある時から完全にアニメーションが担っており、アニメ化することでビッグビジネスにつなげられる漫画がその源泉を司っている。もはやキャラ萌えはアニメシリーズに任せておけばよいはずだが、ごくわずかの例外はあるものの、定番のジャンルとキャラの持続性に寄りかかった制作は続いている。テレビ文化を支えている視聴者が昭和世代ということも大きいのだろう。
30分の単発が珍しいわけではないが、恐怖漫画の第一人者で映画化も少なくない伊藤潤二の作品を原作とすることで、“30分で語りきる物語”という側面が強調され、視聴から集中力が生まれる。言い方は悪いが、登場人物(キャラクター)はその回限りの“使い捨て”であり、煩わしさがない。さらにホラーに顕著な説話性が物語を強化し、物語(だけ)を丸ごと味わえる趣向だ。
我が国におけるホラーのベースにあるのは怪談であり、怪談は落語とも相性が良い。一般的な怪談噺は、30分ほどであるから、文化的にも「ストレンジ」の尺は理に適っているわけである。
第2週に放映された「いじめっ娘」は、照井野々花から真木よう子への女優リレーの完成度が高く、非常に見応えがあった。
小学生の頃、近隣に住む年下の男の子を公園でいじめていた女性。一緒に遊ぶと見せかけて、危険な行為や恐怖に追い込むという巧妙な悪質さ。本人としては“遊ぶ”感覚であり、文字通り“弄んでいた”わけだが大人になってから、思いもよらない方法で彼女は復讐されることになる。
いじめられていた男の子が美青年になり、主人公に接触する序盤はまだ“残酷な童話”の趣があるが、真木よう子が少女時代(照井野々花)を回想することで、ドラマが俄然ドライブしていく。一切の罪悪感を抱かず、かと言って無邪気なわけでもなく、劣悪な家庭環境のウサを晴らすように、中毒性の高いいじめをたった一人で行っている少女。照井の表情には理屈に還元されない強靭な説得力があり、圧巻である。それは狂気ではなく、単なる解放。むしろ生命力の輝きがあるほどなのだ。
ここで描かれるいじめは間違いなく暴力だが、教室内で徒党を組んで行われる集団暴行ではなく、あくまでも学校の外で培われる一個人と一個人の密約に近い関係性であることが重要。もちろんそれをコミュニケーションと呼ぶわけにはいかないが、加害者のありようにも被害者のありようにも、もし多様性を認めるとするならば、途端にモダンな複雑性をまとうことになる。
ひょっとすると、そのときだけ生きている実感を得ていたかもしれない少女は現在、中年と呼ばれる年齢に差し掛かっており、パートナーはいるものの、明らかに疲れており、幸せそうには見えない。真木よう子の、地べたを這いずりまわるような諦念(ていねん)に満ちた日常表現に迫力があり、そんな彼女が、あの男の子の登場を前に、何を選び、何をてばなすかが、物語の醍醐味となる。
照井のヴィヴィッドな芝居に対して、真木は終始地味な演技に徹しており、いずれも目が離せない。前述した通り、この物語には罪悪感が皆無であり、ここが凡百(ぼんぴゃく)の教訓話とは一線を画している。能動的に己を解放していた少女と、今度は受動的に自身の転換を受け入れる中年女性。この行き来がスリリングであり、そこには、人間という生きものの不可思議さがぎっしり詰まっている。
復讐に復讐するラストは鮮やかに歌舞いているが、見どころはそこではない。共感や愛着を排して、初めて見えてくる物語というものがここにはあって、それが30分ほどだということに感動させられるのだ。
今回ご紹介した作品
ストレンジ -伊藤潤二の夜も眠れぬ奇妙な話-
- 放送
- テレビ東京系にて毎週金曜24時12分~放送中
- 配信
- U-NEXTにて配信中
情報は2026年8月時点のものです。














