相田冬二さんのドラマ批評 - LOST10-

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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LOST10

2026/11/6公開

映画『国宝』のコンビ横浜流星✕奥寺佐渡子の野心作

画像:LOST10

©TBSスパークル/TBS

 メガヒット映画『国宝』のコンビでもある、横浜流星(主演)と奥寺佐渡子(脚本)の顔合わせによる「LOST10」は、オリジナル脚本で英語タイトルという野心作だ。奥寺、新井順子(プロデューサー)、塚原あゆ子(メイン演出)のトリオによる作品づくりは「最愛」から5年ぶり。その初回の印象を書く。

 北海道の登山ツアー中に起きた山岳事故を巡り、刑事と保険調査員、遭難者、その家族、医師らの思惑が交錯する。ある意味、おそろしく地味な設定と展開であり、正直、いくら登場人物が増えようと、このような物語で1クールもつのだろうかという不安がある。

 ツアー客全員に山岳保険がかけられており、そのことによって事故は計画的なものだったのではないかというミステリー。牽引のベクトルが単調なため、キャラクター造型は深めにくいし、いまのところ深まる気配がない。明暗、建前と本音だけの陰影になるおそれすらある。

 しかし、初回は滅法面白かった。
 なぜか? ストーリー推しでも、メッセージ推しでも、キャラクター推しでもなく、エモーション推しでもなかったからである。

 とにかくキャスト陣の芝居が面白い。演出も映像も、役者の演技を凝視することに注力している。これでいいのだ、いや、これこそが連ドラ本来の醍醐味ではないか。はっきり言ってお話などどうでもよい。役そのものに深みなどなくてもよい。演者たちそれぞれの切磋琢磨の記録を眺めているだけで、好奇心が刺激される。まさに、高みの見物。それこそがお茶の間の実態であった事実に辿り着く。共感原理とやらから自由になれば、まだまだドラマは痛快さを取り戻す契機に満ちている。

 初回で惹きつけられたのは、4人。表現の細部を見学しているだけで、あっという間に終わった。

 まず、横浜流星。
 彼は、山を愛し、山を知る自負もある刑事だが、どうやらトラウマがあるらしい。だから、山という場には複雑な責任感があり、そこに囚われてしまってもいる様子が伺える。

 横浜は、表向きはアグレッシブな構えを維持しながら、内面の揺らぎがフラッシュバックする模様を、まだらに体現している。コミュ力は高く、相手と呼吸を合わせる柔軟性もあるが、ひょっとすると、その優しさは過去の痛みから起因するものではないかと想像させるナイーブネスを、傍に置いている。ほんの一瞬だが、表が裏になり、裏が表になるような時もある。

 白眉は、終盤、遭難者と対話しながら浮かべた笑顔だ。笑顔が、思いやりから派生しているのは当然だが、そこには己を労り憐れむニュアンスもあり、ぼんやりとした謎もある。深遠な笑顔であり、好奇心を刺激される笑顔である。とにかくイマジネイティブだ。

 相手役に、小栗旬を配したのは新機軸。いわゆる凸凹バディの風味もあり、小栗はあえて一本調子のいけ好かない人物を、安定したトーンで見せている。初回に関しては、横浜流星の複雑性にスポットを当てる必要があるので、小栗はシンプルな芝居をキープした。場を活性化するようなタイプキャストぶり。内面でコントロールしているかのような呼吸には、新鮮さはないが、横浜が狂言回しとは程遠い役のため、動的なストーリーテラーに徹していたように思う。

 つまり、ドラマの軸は小栗の側にあった。演者としては面白みはないだろうが、誰かが担わなくてはいけない役回りでもある。縁の下の力持ちとして振る舞う小栗旬はもうすっかりベテランの風情。

 斉藤由貴は、いかにも怪しい、遭難死亡者の妻を演じている。浪費家であり、自身を見失っているかにも思える女性を、かなりアク強く表現しているが、近年見せる凄みが堆積しており、見応えがある。急に具合が悪く退席したりする姿には、色眼鏡でしか見られない存在の深みがあり、他者とのやりとりも実にスリリングだ。

 耐久性に乏しく、尋問を受けているうちに、発語がかすれていく。まるで、インク残りわずかの蛍光ペンのよう。消え入りつつあるのに、虚勢を張り続ける様には、弱さより、鈍い力強さがある。つまり、しぶといのだ。

 斉藤由貴は、いつの間にか得難い女優になっていた。相米慎二監督との『あ、春』の4K版がこれから公開されるが、あの時もある種の疾患を抱えた女性を繊細に演じていたが、現在の彼女は、現代の病を弱々しくではなく、力強く伝えることができるのだ。

 そして先頃公開された主演作『逃げろお嬢さん』でも見事な演技を披露していた井口理が、小児科医に扮している。初回だけでは、このキャラクターがいかに物語に食い込んでくるのか不明だが、医師のリアリティを底辺に敷き詰めながら、この人物特有の情緒をあらわにするアプローチに魅了される。

 院内での急ぎ足、患者への対応、子供の相手。その全ては、現実の病院で目にした所作であり、声である。だが、その自然さが流れてしまうのではなく、むしろシコリのように残り、気になってしまう。プロフェッショナルな姿勢がただ体現されているだけなのに、この人物のことがもっと知りたくなるのだ。

 井口理は、芸風に頼らない丸裸の芝居を見せる演者であり、それぞれ何らかの芸風を感じさせる横浜流星、小栗旬、斉藤由貴とは対照的。役者によって方法論がいかに異なっているかの実証例としても興味深く、そのクロッシングやグラデーションもエピソードによって変幻していくのだろう。

今回ご紹介した作品

LOST10

放送
TBS系にて毎週金曜22時~放送中
配信
U-NEXT、Netflixにて配信中

情報は2026年11月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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