松本侑子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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リクエスト

アビス

2022/05/20公開

サスペンス×ファンタジー×ラブコメ?!アン・ヒョソプのファン必見のファンタジックミステリー

Netflixシリーズ『アビス』独占配信中

 第1回でご紹介したドラマ『社内お見合い』にハマって、出演俳優たちのファンとなり、社長秘書役を演じたキム・ミンギュさんの日本初ファン・ミーティング(5月14・15日に東京で開催)のチケットをゲット!
 そして『社内お見合い』の社長役アン・ヒョソプさんの他の作品も見たいと思い、選んだのが『アビス』(2019年)。これまた傑作で、オススメです。

 主人公は、化粧品会社の御曹司チャ・ミン。彼は人一倍優しい性格で、かつ頭のいい秀才ですが、見た目が今一つのため、初恋の女性コ・セヨンにもフラれ続け、モテてたことがありません。
 しかし美女との結婚が決まり、幸せの絶頂のとき、美しい婚約者が、「やっぱり、こんな顔の人とは一緒に暮らせない」と言い出した上に、ミンが用意した新居を勝手に売り払い、大金を持ち逃げして行方不明に。
 ミンは絶望するあまり、高層ビルの屋上に立っていたとき、宇宙船が誤って彼にぶつかり、死なせてしまいます。

 宇宙人は、死人を生き返らせる不思議な玉アビスで、ミンを生き返らせたところ、彼はハンサムな男性(アン・ヒョソプ)になって目をさまします。
 アビスは、死んだ人を、生前の魂の姿で生まれ変わらせるため、心のきれいなミンは、美しい男性になったのです。

 一方、彼の初恋の女性コ・セヨンは、検察の特捜部に勤め、やり手の検事として、連続殺人事件の捜査にあたっています。
 そんなセヨンが、ついに犯人特定の核心に近づいたとき、それに気づいた犯人によって、目隠しをされて、実行犯が誰なのかわからない状態で殺害されてしまいます。

 初恋の女性セヨンが惨殺されたと知ったミンは、ショックをうけ、宇宙人からもらったアビスで、彼女を生き返らせます。

 すると、生前のセヨンは、すらりとしたモデル体型でしたが、一転して、背の低い、ふつうの容姿の女性に変わっていました(ドラマでは「ふつうの容姿」という設定ですが、演じるパク・ボヨンさんは、小柄で可愛らしい女優さんです)。

Netflixシリーズ『アビス』独占配信中

 生前のセヨンは、気が強く、男性に対して高飛車な一面もあったため、その魂に応じた姿に生まれ変わったのです。しかし、ややこしいことに、彼女の先輩検事だった女性イ・ミドと瓜二つの姿になったのです。

 その本物のイ・ミドは、今は検事を辞めて弁護士になり、米国に行きました。そこでセヨンは、弁護士イ・ミドになりすまして、警察と検察に出入りし、生前の自分が捜査していた連続殺人犯を見つけるため、さらには自分を殺した犯人を捜すため、元同僚だった検事や親しい刑事たちの協力を得て、危険な捜査に乗り出していきます。

 このように、死んだ人が、自分を殺した犯人を探すという、ふつうはあり得ない奇想天外なミステリーの面白さ!

 このセヨンが、検事時代の捜査経験を生かして、名推理と勇気で難事件に体当たりしていく痛快さ。一方の相棒のミンは、御曹司で金持ちのため資金は潤沢で、頭の回転が早い。そんな小柄なセヨンと長身のミンのデコボコ・コンビが力を合わせて、猟奇殺人事件に挑んでいくうちに、やがて恋が芽生え、後半は、ほのぼのラブストーリーに……。

Netflixシリーズ『アビス』独占配信中

 ちなみに前半は、猟奇殺人の連続で、血まみれの死体が出てきて、ホラーが苦手な私は怖かったのですが、怖さ以上に、毎度のどんでん返しに圧倒されて、全16話、楽しみに観ました。

※以下、内容に関するネタバレを含みます(編集部注)

 たとえば、セヨンを殺した真犯人は一度死ぬのですが、あろうことか、アビスで生き返ってしまい、別人の姿になったため、捜査対象から外れて、ミンとセヨンに再び危機が迫ります。さらに捜査する側にスパイがいて、犯人と通じているため、ミンとセヨンの動きがすべて相手に漏れて、手に汗握る場面も多々あります。セヨンが生まれ変わった顔の女性弁護士のイ・ミドの本物が戻ってきて、イ・ミドが2人いることになり、滑稽な騒動も巻き起こります。こうした予想もつかない展開の連続で、練りに練った脚本がすばらしいのです。

 ホラーとファンタジー、サスペンスとミステリー、最後はラブロマンスと、盛りだくさんの作品と言えましょう。

 傑作ドラマには、必ず名脇役がいます。本作では、セヨンの捜査に協力するパク刑事(イ・シオン)の男気(おとこぎ)と人情、検察内部の腐敗した権力にも負けない正義感が見どころです。
 主役のアン・ヒョソプさんは、撮影時は20代前半。どこかまだ男の子らしさの残る初々しい表情も魅力的です。

今回ご紹介した作品

アビス

Netflixで独占配信中

情報は2022年5月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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