松本侑子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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運命のように君を愛してる

2022/09/12公開

一夜の過ちが運命の恋に変わっていくまでをコミカルに描く

 韓流ドラマが面白い理由を考えました。まず、人の心をぎゅっとつかむ脚本のたくみさ、製作費をかけたセットや衣裳の豪華さ、全世界の海外市場を意識した普遍的でリベラルな価値観、そして俳優の演技のうまさ、でしょうか?

 韓国では、俳優の多くが、大学の演劇・映画学科に学んでいます。
 演技のレッスンはもちろん、古典や新作の戯曲の読解、短い脚本を実際に書いてみる練習、またそれを芝居にして演出する側にまわるなど、多方面から演技力を身につける専門的なプログラムを受けています。こうした特訓の成果が、ドラマの完成度の高さを支えていると感じます。

 今日ご紹介する「運命のように君を愛している」(2014年)は、主演2人の迫真の演技力に、心動かされる名作です。

 チャン・ヒョク氏演じる男性イ・ゴンは、22代続く名門家系の一人息子で、大企業の社長。この一族の男性は短命なことが多いため、家族は、彼が早く結婚して跡取りをもうけることを待ち望んでいます。
 そんな彼には、バレリーナの恋人がいて、結婚を申し込もうとしますが、彼女にはプリマドンナになりたいという夢があり、彼を愛しているものの、求婚の場所に現れませんでした。

 一方、チャン・ナラ氏演じる女性キム・ミヨンは内気な契約社員。会社で面倒な雑用や、上司の個人的な用事を言い付けられても、断れずに引き受けてしまう気弱な性格です。

 そんな2人が、旅先の豪華ホテルで思わぬハプニングがあり、おたがいに相手を間違えたまま一夜を共にして、ミヨンは身ごもります。

 男のゴンは、一日も早い跡継ぎを熱望されている家系の息子ですが、バレリーナの彼女が忘れられません。
 一方、女のミヨンは、独身のまま子どもを産んで育てられるのか、また赤ん坊が生まれるとイ・ゴンの迷惑になるのではないか、真剣に悩みます……。

 こうした奇想天外で、かつ難しい設定から始まる物語を、2人は見事に演じていくのです。
 ドラマでは、この2人の何年にもわたる人生を、たとえば誤解、そして恋の芽生え、第三者の裏切り、悲劇、相手のために身を引く自己犠牲、それでも忘れられない一途な恋心、秘めた思いの切なさを、運命の不思議とともにたどっていきます。

 男と女は、年月がたつと、関係が変わっていきます。
 その変化も描きながら、結婚とは? 親になるとは? 夫婦の幸せとは?といった人生の大きなテーマを、ラブロマンスと笑いと涙をまじえて全20話にわたって描いた大作です。

 チャン・ヒョク氏は、実生活では子煩悩なパパであり、このドラマでも、わが子を想うときの慈愛に満ちたまなざしに、成熟した男性の人間的な魅力と色気がにじみでています。
 またチャン・ナラ氏も、内気で気弱な女性から、意志と情熱をもった職業人へ成長していく姿を演じ分けて、彼女自身のプロ根性と野心も感じさせます。

 男の父性愛の深まりと人間としての誠実さ、女の自立と精神的な成長、そして運命の恋を、ドラマチックに、ロマンチックに演じたチャン・ヒョク氏とチャン・ナラ氏の代表作の一つと言えるでしょう。

 2人の家族役として、有名な俳優が出ているのも、魅力です。
 キム・ミヨンの母親は、「冬のソナタ」(2022年)で、ヨン様演じる主人公の母役だったソン・オクスク氏。「冬ソナ」では、優雅で上品なピアニスト役でしたが、本作では、方言丸出しの豪快な食堂のおばちゃん、気持ちのあったかい肝っ玉母さん役で、ベテラン女優ならでは演技が愉しく、また母の愛が感動的です。
 さらに、米国アカデミー賞を四部門で受賞した映画「パラサイト 半地下の人々」(2019年)において、半地下に暮らす貧しい家の長男で、金持ち一家に寄生するニセの家庭教師役を好演して、一躍有名になったチェ・ウシク氏が、本作ではイ・ゴンの弟分として、コミカルな演技を見せています。

今回ご紹介した作品

運命のように君を愛してる

以下の配信サービスで視聴できます。
Amazonプライムビデオ/Netflix/U-NEXT/dTV/FOD/ABEMA/Hulu

情報は2022年9月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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