松本侑子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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元カレは天才詐欺師~38師機動隊~

2023/10/10公開

詐欺の知能ゲームと派手なアクションでおくる抜群のエンタメ作品

© STUDIO DRAGON CORPORATION
U-NEXT配信中

 主人公のソンイル(マ・ドンソク)は、市役所の税金徴収課で働く地味な公務員で、滞納者から取り立てをしています。

 なかには、六十億ウォンを脱税しているキャバクラ経営者や、一千億ウォンも滞納している資産家もいるのですが、彼らは逃げも隠れもせず、堂々としています。

 というのも彼らは、地位の高い役人、検事、税理士に賄賂をわたして癒着しているため、自分がつかまることはないと、タカをくくっているのです。
 取り立てにくるソンイルなどは完全に小馬鹿にして、侮辱します。

 そんなソンイルは、ある日、貯金をはたいて中古車を買ったところ、見事にだまされ、振りこんだ車代の全額を取られてしまいます。

 そこで親友の刑事に頼んで捜査してもらうと、犯人は、若くて美男子の天才詐欺師ジョンド(ソン・イングク)でした。

© STUDIO DRAGON CORPORATION
U-NEXT配信中

 一方でソンイルは、自分の上司たちが、巨額の滞納者と癒着していることを知ったため、やってもいない罪をなすりつけられ、クビになりそうになります。

 これまで耐えに耐えてきたソンイルですが、ついに堪忍袋の緒が切れ、天才詐欺師とタッグを組んで、まずは六十億ウォンの滞納者をだまして、税金を取ろうと決意するのです。

 この前代未聞の税金取り立て作戦は、痛快、爽快、だましだまされ、さらにだまし返して、アッと驚く知能ゲームの連続です。

 というのも、大がかりな作戦ですから、チームを組むのですが、その面々が、だましのテクニックに秀でた一流の詐欺師たちなのです。

 たとえば、車の当たり屋詐欺など、演技がうまくて口八丁手八丁で人を丸めこむ天才男。
 どんなネットにも入りこんでハッキングをして、公的な機関の偽サイトまでそっくりに作るオタク系プロ・ハッカー。
 色仕掛けで男をだまして金を巻きあげる美女(彼女は変装の達人でもあります)。
 詐欺の元手となる資金を提供してくれる闇金融の女社長。
 そして公務員のソンイル……。

© STUDIO DRAGON CORPORATION
U-NEXT配信中

 この個性豊かなチームが、見事な連携プレイで、強欲な滞納者をだまして巨額のお金をうばいとり、ギャフンと言わせる……。胸のすく面白さといったら、ありません。
 詐欺といっても、取ったお金は税金として役場に納付するのですから、正しいことをしているのです。

 油断がならないのは、このチームの手にかかれば、視聴者も何度もだまされることです。
 「ええっ~」「やられた~!」と叫ばずにはいられない驚きです。

 ドラマは、淡いロマンスも描きます。
 実は、ソンイルの市役所で働く女性公務員(少女時代のスヨン)の元カレが、詐欺師ジョンドだったのです。

 ただし、本作のメインは恋ではなく、男たちの知恵と欲望の対決です。
 題名の「元カレは天才詐欺師」は日本語版のタイトルで、韓国版のタイトルは「38師機動隊」。韓国の憲法第38条に書かれている納税の義務にちなんでいます。

 つまりこのドラマは、市民の権利と納税義務とは? 税金は国民の何のために使われるべきか? という問いかけも、私たちに投げかけるのです。

© STUDIO DRAGON CORPORATION
U-NEXT配信中

 では、若いジョンドは、なぜ詐欺師の道に入ったのか?

 その背景には、かつて彼の両親が、不正や癒着の犠牲になった悲惨な過去があったことが、少しずつ浮かびあがってきます。

 そのため詐欺師チームは、単なる税金の取り立てから、警察や市長もからんだ腐敗と悪に立ちむかっていくことになるのです。

 主役の公務員を演じたマ・ドンソクは韓国系アメリカ人で、英語が堪能です。

 それなのにドラマの第1話では、コツコツと英語の勉強をしているシーンがあり、思わず笑ってしまいました。このドラマは、コメディ・テイストも満載です。

 マ・ドンソクは、俳優になる前は、ボディ・ビルダーをしていた体育会系で、出演した映画「犯罪都市」では怪力のスゴ腕刑事、「悪人伝」では暴力団の組長など、強面(こわおもて)のマッチョ役を演じてきました。

 ところが本作では、超まじめな公務員で、奥さんにも頭が上がらない気の弱い中年男という正反対の役を、巨体を縮めるようにして演じているのですから、そのギャップも、おかしくてたまらないのです。

 脇をかためるキャストも豪華で、有名な俳優が勢ぞろい。これも見てのお楽しみです。


Zoom講座「謎とき『アンの娘リラ』」2023年10月21日(土)13時~14時半
詳細は松本侑子さんのホームページをご覧ください。

今回ご紹介した作品

元カレは天才詐欺師~38師機動隊~

配信
以下の配信サービスで視聴できます。
U-NEXT/Netflix/FOD

情報は2023年10月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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